昼と夜のあいだに……

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 凶悪なウイルスが世界中を襲った。その結果人類は2種類に分かれた。  一つは日の光を浴びると死んでしまう人類。もう一方は日の光を浴びないと死んでしまう人類。その結果、人類は昼働く昼型人類と、夜働く夜型人類の二種類に分かれてしまった。  その時まで、人々にとって夕方は昼間の延長に過ぎなかった。人々は昼間から夜に変わる、街が黄昏ていく、夕焼けの不思議で不安な時間をないがしろにして、自分達の仕事や遊びの時間を優先にしてきたのだ。  しかし人類が昼型人間と夜型人間に分かれてから、人々の生活が変わってしまった。  ◇ ◇ ◇  太陽の光を浴びないと死んでしまう人々は、夕方になると一斉に自宅に帰る必要があるのだ。そして自宅に帰ると日焼けサロンのようなベッドで人工の太陽光を浴び続けながら眠りにつく。  また、太陽の光を浴びると死んでしまう人々は、夜になると我先に外に出始める。何故なら彼らにとって活動出来る貴重な時間だからだ。太陽が地平線の向こう側に沈むと、彼らは完全遮光された棺おけのようなベッドから這い出て来る。  ……  昼と夜の間……それは二種類の人類が一斉に切り替わりを始める、ほんのひと時の静寂の時間になった。例えれば、交差点で全ての信号機が一瞬全て赤になる……交差点の中には人も車もいない不思議な世界。  街の中は静寂に包まれ、人っ子一人いない世界、それが『昼と夜のあいだ』となっていった。  ……  しかし、その中を蠢く不思議な影。野生の動物や昆虫といった生物ではない何か……そう、あやかしと言われる魑魅魍魎達だった。  夕方になり昼型人間が家路に急ぐその中で、ぽつりぽつりと表れる彼らの表情には満面の笑みが浮かんでいた。 「よ! おばんですな、雨傘お化けさん。どうだい最近調子は? 晴れ間が多くてなかなか出番がないんじゃないかい?」 「あら、そういう貴方は、あかすりの旦那じゃありませんか? 最近はユニットバスが多くて出番が少ないわよね」 「そうなんだよ、昔のようなヒノキぶろに入る奴が少ないから俺っちの住む場所もないんだ」  社会が高度になり、人々が昼でも夜でも働き続ける結果無くなった『逢魔が時』。そんな彼ら魑魅魍魎が活躍できる『逢魔が時』が戻って来たからだ。 「おお、これからお出かけですか? 吸血鬼さん」 「はい、今から美味しそうな人間を探しに行かないとね。最近は皆家に引っ込むのが早いからねえ。そう言えばのっぺらぼうさんも脅かす人間が少なくてつまらないでしょう?」 「昔は口先女さんが頑張っていたのですけどね、今は情が無いというのか、ワタシが近づいても声もかけてくれないんですよ」  人類が二種類に分かれて夕闇に迫る街角が無人になる、そして復活した新たな『逢魔が時』が彼らの安息の場所として続いていくのだろう――  ほら、帰りを急いでいるそこのあなた、帰り道に気を付けた方が良いですよ? 元気な魑魅魍魎達に狙われてしまいますから。 了
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