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ジックリ話を聞こうという体制をとった志麻さん(えんちょ座りが胡座に変わっただけですけれど)に、僕は説明をはじめます。
「現在僕は志麻さんに、憑いている状態なんです。けれど志麻さんがお仕事に行ったり、お買い物に行ったり、外出なさったりする際は、僕は家に残るようにしています。出掛けた先に霊感の強い人がいた場合、昼間は目に見えない筈の僕の、霊力を感じ取ってしまう可能性があるんです」
「それって、テーマパークとかプールとか・・・」
「はい、僕の分かっている限り複数人に認識されました。出来る限り害のない浮遊霊ぽく振る舞いました。けれど、確実に恐怖を与えたという自信があります」
志麻さんの頭の上にクエスチョンマークが3つ浮き上がっては消えて逝きます。
これも物の怪の1つの形態なのですが、幽霊とは違いますし、御本人が気付いていないので無かった事にしておきましょう。
「でも、幽霊が前に言っていたじゃない。昼間見えないのは、製造者の男性の幽霊に対する認識がそうなんでしょ。肝試し用の幽霊だから盛りが過ぎれば消えるって。人に恐怖されると何が変わるの?」
「先ずは僕という現象自体がかなりイレギュラーな状態なんです。と言いますのも、先ず墓地の幽霊に憑いてこいなんて言う人は居ません。むしろ除霊の対象です。普通ならば霊園の草葉の陰で、忘れられて消えて逝くのが宿命なんです。ところが本来地縛霊だった僕なのに、志麻さんに憑いてきたことで個人に憑く怨霊にジョブチューンしてしまいました」
「怨霊?幽霊は怨霊なの?私になにかするの?」
全くの無警戒・無防備な志麻さん、一体どれだけ僕を信頼しているのやら、これだから心配で心配で・・・。夏の終わりに霊力が補強されましたし、アパートの結界をレベルアップしておきましょう。
「恨みもないのに呪えませんしねぇ。だもんですから憑いているだけなんですよ。ただし人から見れば怨霊ですし恐ろしいんです。それで二人でお出かけした際、志麻さんから距離をとって浮遊霊の振りをしていたんです」
「何それ酷い!せっかく二人で思いで作ろうってお出掛けしたのに、幽霊は私の側に居なかったの?私が日昼の間見えないからって騙してたの?」
泣きそううな顔で怒る志麻さんに「しまった」と思いまして、僕は全力で宥めます。
「とても楽しかったですよ、距離を取ると言ってもぴったり後ろに憑くのではなく、一人二人間に入れる距離を取っただけです。トイレと更衣室以外はすぐ側に居ましたから」
本当は目視できるギリギリにガッツリ距離を取ったのですが、この際嘘も方便と云うことで。
「トイレと更衣室!」
志麻さんが悲鳴に近い叫びをあげます。
とて繊細な問題に火を付けてしまい、まずはコチラを解決しないと話が進まないようです。
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