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「志麻さん、僕は家に居るときでもトイレやお風呂には憑いて行きませんよね。お着替えになる際は部屋の外、玄関表の廊下に出てるじゃないですか。本来怨霊の類となると、恨み辛みの相手から離れないんですよ」
「それって、トイレやお風呂・・・」
「勿論憑いていきます。怨霊ですから」
志麻さん、お顔が引きつり強張ってしまいました。
どうやって軌道修正するべきか、顔色を伺いながら考えるも、よい案が浮かびません。
ここは一度リセットしたほうが宜しいようですね。
「志麻さん、後できちんとお話しますので、一先ずお食事を済ませませんか?ただでさえ残業で遅くお帰りだったんですよ。既に九時半を回っています。僕の話ならば、いつでも出来るじゃないですか」
食事の手を止められて居たので、せっかく買ってきたおでんがすっかり冷めてしまっています。
志麻さんもそれに気が付き、無言でもぐもぐし始めるものの、絶対に納得していない表情です。ここは僕も心を鬼にして、お食事を済ませて頂きます。
食事と後片付けを終え、再び僕と向かい合う志麻さんはお気に入りのハート型のクッションを手足で抱え込み、ベットを背もたれにして臨戦態勢を取ります。
「では、いざ参ります」
「どちらへ行かれるんですか?私の話は「聞きます!」」
「ではでは、私が消えなかった話を済ませましょうね」
まるで佳境に入ったサスペンスを見るように身を乗り出す志麻さん。(ホラー映画のほうが合ってますかねぇ)
「本来ならば夏の肝試し期間限定の地縛霊が、ジョブチューンして怨霊に成りました。ところが恨み辛みがないので、単に憑いて回るだけの幽霊です。元々が志麻さんに縁がない幽霊ですから、怨みに縛られず自分の意思で憑いたり離れたりできて、この辺りは幽霊としてはかなり異端なんです」
一旦話を切り志麻さんが話に付いて来られているか顔色をみて、話を続けられそうなことを確認します。
「志麻さんは夏が終われば消えてしまう僕のために、思い出作りを提案して下さいました。『昼間ならば人から見えないでしょ』と、そう仰ってテーマパークとプールに行きましたよね。志麻さんのせっかくの提案に水を差したくありませんでしたし、私も知らない場所に興味がありましたから、できるだけ目立たないように憑いて行ったんです」
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