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夜間は少し冷える季節ですね。それとも怪談話をしているせいでしょうか?志麻さんが薄手の上着を羽織りました。
「怨霊は霊感の強い人の危機感を煽りやすく、感じ取られやすいんです。志麻さんと一定の距離を取ることで浮遊霊のように振る舞い、視覚化し難い昼間を選び、僕も大丈夫だと思っていました。ですが霊感の強い方が思った以上に多く、数人に目視され、それ以上の人数に感じ取られた様に思います」
「それって、幽霊が消えなかった理由と関係があるの?」
「はい、関係があるんです。志麻さんは、お菊さんという有名な幽霊をご存知ですか?」
「お菊さんて・・・、もしかして皿屋敷の?」
「はいその皿屋敷のお話は、播州と番町が有名ですけれど、実際には日本国内に沢山残るお話です。何故か解りますか?」
「無理、頭パンクしそう」
眉間にしわを寄せ頭から湯気が出そうな志麻さんは、クッションを抱え込む手に力が入り、形状を維持できるかどうかクッションの身を案じてしまいます。
「チョット待ってね、飲みながら聞いてもいい?」
「明日もお仕事ですよ?」
「大丈夫一本だけ!」
「聞きましたかよ、約束しましたからね」
志麻さんは冷蔵庫から酎ハイを取り出しもとの位置に座りました。(500mlのアルコール度数の高い物を選んできましたよ。全く)
プシュ!
ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ♬
「クーッ!よし効いた、リセットできた」
缶半分を一気飲みし、とてもスッキリした感じの志麻さんは話の続きを促します。
「では、続けます。お菊さんの物語に基となる実話が在るのかどうかは分かりません。ですが、国内にお菊さん幽霊の話と井戸が複数存在している理由は、とても簡単に説明できるんです。お菊さんの話が広まった際に、恐怖を感じた人達が井戸にお菊さんの幽霊を作ってしまいました。そのときはまだ曖昧でいつ消えるとも知れない、儚い幽霊でしかなかったお菊さんを霊感強い人が目撃し、お菊さんの霊力を補強してしまったんです。そうして補強されたお菊伝説がそこかしこに、井戸と共に残ったということですね」
「ねぇ幽霊」
首を傾げる志麻さん、また脱線の予感がします。
「お菊さんの幽霊は全員残ったの?」
「そこまでは僕には分かりません。お菊さん達だって当人のこと以外はわからないと思います。僕の憶測であることを前提として、気付いて貰えなかった、時間が経ち忘れられたお菊さんは消えて逝ったのだと思います。誰にも気付かれず、作り出した人が恐怖を忘れ、お亡くなりになれば霊力の補充も補強もありません。僕達幽霊は消えて逝きます」
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