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「幽霊、私どうしよう」
不安そうに僕を見つめてくるので、安心させて差し上げねばなりません。
「大丈夫ですよ。このプールは既にシーズンオフで閉鎖されてますし、来年までには忘れられて、消えないまでも薄くなると思います」
少しホッとしたのもつかの間、すぐにまた不安そうな顔に成り、縋り付くように言うのです。
「でもそれだと今度は幽霊が居なく成っちゃわない?薄くなっちゃうの?」
不思議なのは、私や菊さんが消えることは嫌がるのに、プールの幽霊には消えても良いようなご様子であること。
この違いは一体何なのでしょうね?人の矛盾はそのまま幽霊の不条理につながるのでとても興味深いです。
「僕のことは問題ありません。テーマパークで知人に会いまして、その方が僕を忘れそうにありませんから」
「えっ、幽霊に知り合いなんか居るの!」
「ええ、僕も吃驚しましたよ。テーマパークで志麻さんのおトイレ待ちをしていた際にお会いしたんです。市営霊園の肝試し中に僕を作っちゃった男性でした」
「あれ?でも幽霊はその人の設定で昼間見えないんだよね」
「そこがよく判らないんですよね。『肝試しは夜しかやらない』という設定なのかも知れません。僕と確実に目が合いましたよ」
「その人にとって、テーマパークの幽霊は昼間見えてもいいんだぁ」
「多分そういう事なんでしょうねぇ。不思議ですけれど」
「不思議だねぇ。それでその人は幽霊を見て驚いたの?」
「はい、まだ開場したばかりの時間でしたのに、一緒に居た女性を置き去りにして退場ゲートへ走って行かれましたよ」
「それは最低だよね」
「僕もそう思います。まあ、それだけ僕が怖かったんでしょうし、その分僕の霊力が補強されました。薄くなり始める時期だった筈なのに逆に濃くなりまして、その日は一日中随分と目撃されてしまいました」
「なるほどねぇ。それで幽霊は無事此処に居るわけだ」
残った酎ハイを揉み干して、缶を洗いに流しに立つ志麻さんはとても御機嫌な足取りでした。
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