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「今日はここまで来たんだね。お目付け役の赤の者は、もしかしてこの中で君を見失ったのかな」
「僕がちいさいから」
「やあ、それは違うね。何故なら私はこうして君を見つけられているのだからね。そうだな、きっと君の動きやなすことが奇抜な所があって、彼等には少し、意表なのだろうね。君は少し、彼等とは違うから」
「ぼくは皆とちがうの?」
「違うよ」
「あなたも、青とも赤ともちがう」
「そうだね。私と君は、同じ貴重な色だからね」
その言葉の通り、毎日沢山の色を教えられる紫にも、この色は初めて目にする色だった。
どの色にも見たことがない印象が、この色にはあった。青に感じる落ち着きや晴れやかさ、赤に感じる情の強さに活気溢れる快活さ、それらとは、全く違っていた。なにかに寄せて答えるとすると白や黒に近いものを感じる。しかし、色としてはそこから真逆にあっていて、表現が難しい。
まだどの色にも教えられていない。この色から受ける感覚も、例えようもなかった。
幼い紫にも感じる程、この色は特別であった。それ故に、紫はこの色とのことを、どの色にも言えないままでいた。
この色に会いに行く為、紫はこの場所に足を運んだ。まるで秘め事だった。生まれて間もない紫が初めて得た秘密は、あまりにも輝かしく、目映いものであった。
それは想い馳せるものだけではなく、目から受けるこの色、その特色によるものでもあった。
紫が秘めたこの色はどの色にもなく、存在そのものが輝かしく、美しい色だった。動くと宙に残る大小の光の粒が、漂う軌跡で揺らぎながら散って、消えていく。零れ落ちた光の粒はこの煌びやかな色の体や、髪や、指先から舞って、落ちる。時には瞬く睫毛から、時には微笑むその輪郭から。
紫は宙で輝く光の粒が煌びやかな色の残像となり、名残を残すのが好きだった。そこにいたことを知るのは紫のみで、やがて散って消えてしまう真実を、自分だけが知っていることが紫には誇らしく思えていた。
「明日もここに来るかい?」
「きたばかりだよ」
「私はここにいるよ、いつでもね」
「ここに? わかった」
「お迎えが来たよ」
品のある笑みを浮かべた煌びやかな色が紫の背後を、指さす。動きにつられて紫が背後を向くと、そこには本日共に行動をしてくれている赤の勢の数色が、こちらへ駆けて来る最中であった。
そうしてもう一度振り向くと、煌びやかな色はもういない。何事すらもかなかったように混ざり合う鉛丹と黄櫓染が、空の青へと丁子色を登らせていた。
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