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俺は、飲んでいたコーヒーをテーブルに置いて桜子を見た。
「桜子さ、俺に何か隠してない?」
「えっ? どうして?」
「だって最近、スマホばかり見てるし。それに、俺にスマホの画面を見えないようにしてない?」
桜子がバッグの中のスマホをちらっと見た。
それから俺を見て何か言いかけたが、結局また目を逸らされた。
どうして目を逸らすんだろう。俺は思い切って聞いてみた。
「あのさ。浮気、とかしてないよね?」
「えっ!?」
桜子が、驚いて俺を見た。
「智明くん……。私のこと、疑ってるの?」
「じゃあさ、俺に見られたくない内容の通知って、どんな理由があるか教えてよ」
「……」
桜子は黙ったまま俺からまた顔を背けた。
少しの沈黙の後、桜子がぽそっと呟いた。
「……旅行の時」
「え?」
「旅行の時に、行きたい場所があって……」
桜子が震えた声で言って、バッグからスマホを取り出して操作した。
目当ての画面が出たのか、俺の方を見ずにスマホだけ差し出してきた。
「……?」
渡されたスマホを見ると『予約が取れない状態が続いていることについて』という文章が、まず目に飛び込んできた。
画面をスクロールしてみると、
『ご好評いただいておりますペアアクセサリー手づくり体験につきまして、大変予約が取りづらい状況となっており、誠に申し訳ございません』
と書いてある。
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