おばあちゃんのお願い

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おばあちゃんのお願い

 朝、家の玄関で靴を履き終えたときだった。おばあちゃんが小走りで駆け寄ってくるのが見えた。  どうしたんだろ?  「ねえ、志保」 「ん? なに?」 「突然で悪いんだけどね。今日、おばあちゃんを神社に連れて行ってくれないかい?」 「えっ……?」  いきなりそんなことを言われて、咄嗟に言葉が出なかった。でも頭の中では、検討はついていた。  昨日、おばあちゃんが夕飯のときに話していた神社のことだろう。確か来週の日曜日には取り壊しになるっていう……。 「ダメかしら?」  おばあちゃんのか弱い声にハッとする。少し申し訳なさそうな顔で私を見つめていた。  うっ……、そういう顔されると断りづらい。それに、ダメってわけじゃない。 「う、うん。大丈夫だけど……」  おばあちゃんの表情がパッと明るくなる。  もうこれは後には引けない……。でも昨日、私が一緒に行くって約束しちゃったし。ただ、今日行くとは思っていなかった。  だから私は慌てて言葉を足した。 「えっと、文化祭の準備から帰ってきてからになるから……。神社に行くの夕方くらいになると思う。それでも良い?」 「えぇ、それで構わないわよ」  おばあちゃんはそう言ってニッコリと笑う。  私も、少しぎこちない笑顔を作って答えた。  あははっ……。とりあえず、学校に行こう。  気持ちを整えるように、トントンとリズミカルに靴の先で地面を打った。 「行ってきます、おばあちゃん」 「えぇ、気を付けて行ってらっしゃい」  おばあちゃんの穏やかな声を背に、私は玄関のドアを開け外に出た。すぐそばにある自転車にまたがる。ペダルに足をのせ、力を込めて漕ぎ出した。田舎らしい、真っ直ぐに伸びる道を進んでいく。秋らしい、ひんやりとした風が心地いい。  青空の下、私は昨日、おばあちゃんが話していた神社のことを思い返していた。
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