蓋を開けてみた

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蓋を開けてみた

「結局、あたしはお使い損じゃん!」  翌日、朝一で親友の陽菜(はるな)にバカ兄への不満を叫ぶ。 「あー、分かる分かる。ウチの兄貴も、私の漫画勝手に持ってって、片付けないの。リビングに置きっ放しにするから、私が叱られるんだよ。そもそも部屋に勝手に入るって、あり得なくない?」  隣席の彼女は、教科書やノートを机の中に収めながら、眼鏡の下で眉間を寄せる。 「うわ、それも無いわー」  ウチのバカ兄に部屋に侵入されたら、あたしなら耐えらんない。陽菜(ハル)に同情していると、斜め後ろの席からメゾソプラノの可愛い声が加わってきた。 「でもさー、まりりんのママ、優しいよね。ウチだったら、おねーちゃん達が私のオヤツ食べて喧嘩しても、放置だよ」  衝撃の告白に、あたしとハルは顔を見合わせた。 「ええー、それは酷いんじゃない?」 「ウチ、三姉妹でしょ、ママも忙しいから、イチイチ構ってらんないって考えみたい」  彼女は慣れているとばかりに力強く笑った。あたしは、どんなに成長したって、バカ兄の横暴に慣れてなんかやるもんか。 「美智佳(みちか)ちゃん、苦労してるねぇ」  手を伸ばして、ぽんぽんと肩を叩くと、照れ臭そうに首を振る。 「うーん、生まれてからずっと上に2人いるからねぇ」 「だよね。妹ってさ、不利だよ」  あたしは、腕組みした。これは看過出来ない。妹達は皆、泣いている……。 「損することはあるよねぇ」 「だってさ、年下だから経験も少ないし、未熟だし、力も口ゲンカも敵わないよ」 「そうだね、親も上の子には甘いよね」  友達2人も憤っている。これは、もう、立ち上がるしかないじゃない? 「ねぇ、あたしらで被害者の会作ろうよ!」  グッと拳を掲げて、友の顔を見る。 「は? 何それ」 「被害者の会って……何するの」  掲げた決意の拳は、ハルの両手に下ろされたが、あたしはめげない。 「うーん、当面は愚痴言って、ストレス発散!」 「それ、今と変わんないよ」 「それから、横暴な年長者に対抗する方法とか考えるの!」 「それは……無理なんじゃない」 「あと、色んな意味でのあたし達『妹』が救済されるように、如何に親達に働きかけるか……」 「いや、ウチは放置だから」 「それっ! 諦めちゃダメだって、美智佳ちゃん。必ず策はある筈だって!」  友らは、顔を見合わせて苦笑いする。 「でも『被害者の会』ってネーミングは、大げさだよ」 「うん、なんか残念な感じ」  仕方ない。そこは甘んじて妥協しよう。確かにあたしにネーミングセンスはない。 「じゃ、とりあえず『妹、友の会』」 「それもなんか恥ずかしぃー」  ソッコーで否定か。うう。 「じゃ、カッコ仮で『妹の会』ね」  『妹の会(仮)』ってこと。 「シンプルだね」 「ま、分かりやすいじゃん」  折衷案で折れたらしい2人の賛同を得て、あたしの胸は高鳴った。世の横暴な年長者め! 今に見てなさいよっ!  ――キーンコーンカーンコーン……  高揚感を押さえつけるように、予鈴が鳴った。今日は月曜日。朝礼があるから、体育館に行かなくちゃ。あたし達は、急いで教室を後にした。
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