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それぞれの立ち位置
「でね、昨日もバカ兄がさぁ……」
昼休み、机を寄せてお弁当を食べながら、年長者への愚痴大会。噂が広がり、あたし達の「妹の会(仮)」には、他のクラスメイトも加わってくれた。もちろん、皆、妹だ。
「お前らさぁ、妹だけじゃねぇぞ。弟だって虐げられてるんだぞ」
ワイワイ盛り上がっていたら、近くの机から、本村が会話に刺さってきた。
「なに、アンタ弟なのっ?」
あたしは首を伸ばして、歓迎する。男の子の兄弟話も興味ある。
「お、おう。俺の兄ちゃん、高校生で身体デカくてさ、喧嘩は勝てねーし、俺がセーブしたゲームのデータ消すしさ。マジムカつく」
「そうか、そうか、弟も大変だねぇ」
「お前ら女だから、加減されてんじゃねぇの?」
「いや、それないって。あたしんとこ姉ちゃんだけど、思いっきり引っ掛かれたよ」
男兄弟の方が大変だ、という主張には美智佳ちゃんが反論して、左のブラウスの袖を肘まで捲りあげた。そこには赤い筋が5cmくらい走っている。
「うわ、痛そー!」
「大丈夫。あたしも姉ちゃんにミミズ腫れ作っといたから」
ひゃー、と引いたところで、反対の机からぽつんと言葉が飛んできた。
「いいなぁ」
発言元を振り返ると、大人しい長野さんがニッコリと微笑んだ。
「私、一人っ子だから、きょうだいがいる生活って想像出来ないよ。賑やかで羨ましい」
「いやいやいやいや! 羨ましいのは、そっちだろ!」
「そうそう! 良かったら、ウチの兄貴貸してあげるよ」
「ウチのバカ兄も良かったら!」
妹、弟、ともに即反論。年長者、大安売りです。
「ふふっ。ありがとう。でも、私のきょうだいじゃないもんねぇ」
彼女はおっとりと断った。ああいう穏やかな性格は、常にモノの奪い合い、マウントの取り合いという殺伐とした日常を送っていないからなのかな。
「あのさぁ」
更に、別の声が加わる。少し呆れたような苛立った気配で。
「妹、妹、言ってるけど、ウチ、妹がいるんだ。年上ってのも、苦労あるよ」
「ええー」
逆の立場からの抗議に、あからさまな不満の合唱。
「ウチの妹、要領良くって。ミスしても、いっつも親に叱られるのアタシ。妹、すぐ泣いて逃げるんだよねぇ」
鈴音ちゃんは、しみじみと吐き出した。心なしか、しかめた目元に小じわが見えるようだ。
「そっか……年上も不満は、あるんだね」
三姉妹の末っ子、美智佳ちゃんはフゥと息を吐く。なにか思い当たる節があるのか。
「すずちゃん、姉側の苦労話、もっと教えてよ! きょうだいが歩み寄るための参考にしたいなっ」
「はぁ? まぁ……いいけど」
これは面白くなってきた。色んな立場から話を聞くことで、不毛なきょうだい喧嘩が少しでも減ればいい。
「私もきょうだいの話、聞いてていい?」
相変わらずニコニコ笑顔で、長野さんも関心を向けてくれた。
「もちろん! なんか楽しくなってきたねっ!」
「当初の目的から、逸れてきたんじゃ」
ハルのツッコミ虚しく、あたしは『妹の会』の盛り上がりに有頂天になった。
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