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明かされて、生まれて
昨夜、ママが作った親子丼と、豆腐のお味噌汁を食べた。お味噌汁の具材は同じなのに、お兄ちゃんのたどたどしい味と違って、ママの味は円やかでふくよかだった。久しぶりの母の味に、お腹はほっこりしたが、心は強張ったままだ。
「冴千也、万里香、聞いて欲しいの」
家族全員が箸を置くと、ママは隣席のパパの顔を見て頷いて、改まった。食卓に緊張が走る。
「実はね……」
その夜、家庭内の「隠しごと」の正体が解け、ホッとしたのも束の間――あたしは新しい「隠しごと」を抱えることになった。
どうしよう……。
-*-
「ちょっとまりりん、聞いてくれるぅー?」
鈴音ちゃんが朝のHR前、登校してきた途端、あたしの前の席にドカッと座った。あ、そこは志水君の席。彼はいつも遅刻ギリギリで駆け込んでくるから、ま、いっか。
「これ見てよ、ノート!」
数Ⅰと表紙に書いたキャンパスノートをパラパラ捲ると、突然ビリッと無惨に1/3くらい破り取られているページに出会した。
「昨日、部屋を散らかさないでって注意したら、お風呂入っている間に、コレよコレっ! 琴音のバカ、仕返しがえげつないのよね!」
確かに破られたページは、これからテスト範囲になる部分だ。彼女の妹ちゃんがテスト範囲を知っているとは思えないが、一生懸命書いたノートを破られては怒り心頭だろう。
「わ、ヒドいね。すずちゃん、あたしので良かったら、写していいよ」
「ハルちゃん、ありがとうっ! 助かるぅー」
優しいハルの申し出に、鈴音ちゃんは吊り上がりかけた眉を下げた。
「ね、すずちゃん。琴音ちゃんって、今何年生?」
「えぇ? 小3だけど……」
4歳違い。あたしと兄の年の差と一緒だ。
「あのね、もしかしたら、琴音ちゃんは散らかしてたんじゃなくて、片付けようとしていたんじゃないかな? あたしにも覚えがあるんだよね。片付けてるつもりなのに、益々散らかって、上手く出来なくてイライラして」
「あー、分かる! 自分にガッカリしてる時に注意されると、逆ギレしちゃったりして」
背後から美智佳ちゃんが加勢してくれる。
「そ。ホントは自分が悪いこと分かってんのよね。だけど妹なりのプライドがあるっていうか」
ハルもクシャッと困り顔になる。身に覚えのある「妹」達は、「ねー」と苦笑いしながら頷き合った。
すずちゃんは「フーン」と呟くと、ハルのノートを借りて、自分の席に戻ってしまった。
「何か……あたしら、『妹の会』してるね!」
嬉しそうに声が弾む美智佳ちゃん。
「うんっ、ビックリした」
頬が薄ら染まったハル。
「やっぱ、妹あるあるってあるよねぇー!」
「ねぇー」
今いちノリの悪いあたしを、ハルが覗き込む。
「まりりん?」
「う、うん。あるあるだよねー」
あたしは空元気を絞り出してガッツポーズしてみせた。
「なに? まだお兄さん変なの?」
ハルが心配してくれる。あたしは慌てて首を振った。まずいまずいまずい! バレないようにしなくっちゃ!
HR前の予鈴に救われて、この話は水入りになった。ホッとしながら、ホッとしていることを悟られないように、小さく息を吐いた。
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