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発端のカボチャプリン
ないっ! ないないないないないっ!!
冷蔵庫を開けて、とっておきの黄色いカップが消えていることに、あたしの血の気が引いた。
まさか、まさか、まさかっ!?
キッチンの燃えないゴミ用ダストボックスを覗いて、そこに目当ての残骸を見つけると、今度は頭に血が上った。
アスリート真っ青の2段飛ばしで階段を駆け上がると、1番手前の左側のドアを開ける。
「おにーちゃん!! あたしのカボチャプリン食べたでしょー!?」
バーンと開いた部屋の中から、兄独特の男臭がして、思わずバタバタと手を振る。
「あぁ? 何、勝手に開けてんだよ!」
ベッドに寝っ転がって漫画を読んでいる緑と白のラガーシャツのイノシシが、頭だけを上げた。こちらを見返す目付きが剣呑だ。
「食べたでしょ?! あたしのカボチャプリンっ!!」
くっさくて、汚い部屋の中に踏み込むことに躊躇ったまま、入口からちょっと乗り出して叫ぶ。
「うっせー、名前書いてあんのかよっ?」
「そんなの書かなくても、あたしのだって知ってんじゃん?!」
昨夜、パパが4個買ってきたのだ。8時を過ぎていたから、『明日、食べるから』って言っていたのに。
「知らねー。さっさと食わねぇからなくなるんだろっ!」
「バカにぃー! サイテー!」
「ちょっと、あんた達、いい加減にしなさいっ! 外まで聞こえるでしょっ!」
いつの間にか上ってきたママに、2人して怒られた。なんであたしまでっ!
「だぁってぇー、おにーちゃんがぁー!」
思いっきり頬を膨らませて抗議する。
「万里香、だったらお使いに行って頂戴。ついでにプリン買ってきていいから。冴千也も、人のもの勝手に食べないのよ」
バカ兄は、ママには「はーい」なんて素直に答えて、漫画の陰からあたしを見てニヤッと笑った。
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