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ポロリと言葉が零れた。私が真顔で漏らした台詞に、眼鏡の向こうで先生が目を丸くした。
「付き合いましょうか、先生」
「俺の血管は魅力ないんじゃなかったのか?」
「先生となら血管への想いを共有できる気がして惹かれました。全身の血管をまさぐらせてください」
私が言うと、先生は座ったまま身体をくの字に曲げて噛み殺すように笑った。
「狂ってるな。でも、今までで一番グッと来たかも」
すると結城先生が腕を組み、不敵な笑みを浮かべて私と瞳を重ねた。
「良いこと教えてやる」
小首をかしげると、先生が蹴り上げる様に足先を私に向けた。
「俺の足背の血管、やばいよ?」
その勝ち誇った様な視線に、9万kmの血管に電気が走る。心臓が拍動する度に白血球、赤血球、血小板その他諸々の成分が高速で駆け巡る。内皮細胞が悲鳴を上げる。全身の血管が怒張してぷっくりと浮き出てしまうんじゃないかと思うくらい、恍惚とする。
ああ、先生の足背を隠す踝丈の靴下が憎い。自然と指が自分の腕を弄りだす。
「何、自分の血管触って興奮してるの?」
「先生の血管を想像して興奮しました」
先生は呆れたように表情を緩め、組んだ足の上に頬杖をついた。やっぱり、一挙一動が様になるよなと思ってしまう。むかつくけど。
「じゃあ、付き合うでいいのな?」
「え? 正気ですか?」
自分で好きだと言っておきながら、あっさりすぎて聞き返す。だって一応この人は、王子と呼ばれるくらいにモテるのに。
「今までになく楽しそうだなと思って。俺達結構似た者同士だし」
「どこが?」
「まだ内緒」
先生が長い人差し指を口元に当ててきゅっと目を細める。もう限界だというのにまた心拍数が上がる。身体が火照る。
かき乱される。結城先生のくせに、本当にむかつく。近々その足背を嫌という程愛でてやるんだから、覚悟しておけよ。
完
フェチズム:血管
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