放課後と生徒会室

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✱涼宮視点 …夏澄。 教えてもらった名前を反復する。顔や心に違わず綺麗な名前だ。 ようやく見つけた夏澄は、あの時見た姿と変わらず綺麗な顔をしていた。細長く白い手足、小さな顔にパーツが綺麗に配置されていて。色素が薄いのだろう、綺麗な栗色の瞳は全てを見透かされるかのような透明感を纏っている。 俺は夏澄に会った日を思い出しつつ、話し始めた──。 あの日は確か入学式の次の日だった。その日は入学式の次の日で授業があるわけではなく夜に親睦会というなの騒ぎがあるくらいで俺は中庭を歩いていた。生徒会長なんて言う面倒な役柄に、まとわりついて来るチワワ共。結局こいつらも俺の顔や権力に酔いしれているだけでキャンキャン鳴いてつまらない。適当につまみ食いしたりもするが、ただの遊びだった。 その日は1人になりたくて、親衛隊の女みたいな男どもに怒鳴って蹴散らそうとした。それが悪い事だとも思ってなかったし、今までの俺の当たり前だった。 その時だ。夏澄が現れたのは。 声をかけてきた夏澄に、俺は目を奪われた。 こんなに綺麗な男を見たことがないと。1目みて抱いてやってもいいと俺は上から目線でそう思った。声をかけてきたって事は相手にもその気があるのだろうと。それくらい自分の容姿にも家柄にも自信があったし、寄ってくる奴らは大抵それが目的だったから。 でも夏澄の次の言葉に俺は驚いた。 「おい、デカい図体して小さい子虐めるなよ!みっともない」 凛としたその声に、周りも俺も時が止まったみたいだった。 ……俺を叱ったんだ。夏澄は。 同じくらいの歳のやつに叱られたのなんて初めてだった。甘い両親の元に育てられた俺は、多少の小言は言われたことがあっても「みっともない」とまで、しかも同じ学園のやつに言われたことなんてなかった。 チワワの誰かが「コイツ、涼宮様になんて事を…」と震える声で呟くのが聞こえる。そうだ、これが普通の反応だ。怖くないのか?学園内で1番権力がある俺に歯向かうなんて。 「お前、俺の事知らないのか」 「知ってますよ。生徒会長でしょ。だからって生徒会長が小さい子虐めてるなんて情けなくないんですか」 俺が年上だと思い出したからか、取ってつけたように敬語を使ってくるそいつの腕を俺は思わず掴んだ。 「い、た…っ、何ですか、暴力じゃ何も解決出来ないっすよ!」 制服の腕の内側に着いているマークの色。それを見て夏澄が1年なのを確認する。俺のことは知っていても俺の噂は知らないのか?俺は楯突いてくるウザイやつらを何人も退学にしたり病院送りにしたのに。 「お前、名前は?」 俺がそう聞くと夏澄は少し考え事をした後ハッとしたように俺をみた。 「退学にでもさせる気かよ」 ── やっぱり俺の噂を知っているんだ。 知ってるのに自分の事でもないのにチワワ達のために楯突いてきたって言うのか?今まで俺の周りにそんな奴いなかった。俺は俄然興味が湧いて、更に名前を尋ねた。 「誰が教えるか!」 夏澄はそう言って俺の腕を思い切り振り払い、走って逃げていく。 それから俺は夏澄を探した。でも名前も知らない相手をどう探すべきなのか分からなかった。入学してきたばかりで情報もないし、無駄に生徒数が多すぎる。 そうやって探していてもう諦めようかと思っていた今朝、ついに夏澄を見つけて瞳を見た時どうしようもない衝動が湧き上がってきてキスをしてしまった。 そしたら鳩尾に肘を入れられて、気の強さは変わってないと俺は思った。食堂でチワワを庇った夏澄を見た時も初めてあった日のことを思い出した。 でも夏澄は俺をぼえていなくて、聞けば事故で記憶喪失だという。 ……でもそんなの関係ない。夏澄が覚えていなくても俺が覚えている。これからゆっくり、俺を好きにさせればいい。 俺は自分の感情は伏せつつ、かいつまみながら夏澄に説明をした。
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