放課後と生徒会室

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しん、と俺と幸ちゃんの間に微妙な空気が流れた。 「運命の人……?」 「はい、まさしく言葉通り。それで名前を聞こうとしたら1年の教室のある棟の場所だけ聞いて素早く走っていってしまって……。その次の日このバカ会長が人探しをしていると、その人が私の探している貴方とそっくりだったので一時休戦して2人で探していたんです。ようやく会えましたね」 そういうがいなやニコリと笑って神宮寺先輩が俺の手を取った。ぞわりと鳥肌がたつ。確かに神宮寺先輩はとても綺麗な顔をしている。だがその前に男だ!俺に男趣味はない。 というか事故前の俺、たった2日間で2人に、しかも生徒会長と副会長っていう厄介なところに目をつけられるなんてどういう事だよ…。恨むぞ…。 「だから、私の癒しになってくれませんか?」 「へっ?癒し?」 運命の人だなんていうからそういう、男同士で付き合おうだのっていう話かと思えば目の前の神宮寺先輩は至って真面目な顔をしている。 「このバカ会長だけじゃなくて広報委員もチャラ男でこれまた手がかかって仕方ないんです…。これまで頑張ってきましたが私だって癒されたいんです」 目に見えて疲れた顔をする神宮寺先輩に良心が痛む。話を聞く限りではこの涼宮という生徒会長が仕事をサボっているせいで副会長の神宮寺先輩に仕事が全部回ってきているようだ。 「で、でも癒しって俺は何をすればいいんですか?」 「何もしなくてもそばにいてくれればいいんです。表情や性格を作らなくていいというだけで幾分か気が楽ですし、その上で私の話を聞いてもらいながらお茶なんてどうでしょう?後はたまにハグさせてもらえればありがたいんですが…」 「ハ、ハグ…ですか…?」 「はい、ハグにはストレスを緩和する効果がありますので。それに涼宮が夏澄さんを気に入っているので夏澄さんがいれば涼宮もまともに生徒会の仕事をするんじゃないかと思いまして。私を助けると思って、どうかお願いできませんか??」 うっ…。 しんどそうな表情で見つめられ、俺の心は揺れに揺れた。ハグくらいいんじゃないか?とか、こんなにキツそうな人を無下に出来ない、とか色々考えが交差して。少し考えたあと、俺は首を縦に振った。 「…分かりました、俺でいいなら」 「か、夏澄くん、いいの?」 幸ちゃんが困惑したように問いかけてくる。 「だってこんなしんどそうな人ほっとけないんだもん…」 「確かに、僕全然知らなかった。神宮寺様がそんなに追い詰められてたなんて…。いつも凛としていらっしゃるから…」 幸ちゃんがしゅんとしたような顔で膝の上で手を握っている。幸ちゃんは可愛くていい子だなぁと改めて感じる。 「貴方が気に病むことはありません。私は外ではいつも完璧な振る舞いを心がけていますから」 幸ちゃんを見て微笑む神宮寺先輩を見て、最初はなんだコイツって思ったけど案外いい人なのかもと思った。手を握ってきたのとか手にキスしてきたのとか、全部疲れてたのかも。 俺は今度一緒に昼食を食べるという約束を取り付けられて、幸ちゃんと生徒会室を後にした。
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