500人が本棚に入れています
本棚に追加
新しい出会い
「き、緊張した〜…でも酷いこととか言われたりされたりしなくてよかったね」
幸ちゃんが汗を拭うような仕草をして、にっこりと俺を見る。
「確かになんかいちゃもんつけられたりするのかと思ってたけど…案外普通だったな」
「ほんと夏澄くんたった2日でどれだけフラグ立てるの!もっと気をつけないとあっという間に王道だよ」
「……?王道?」
聞き覚えのない言葉にきょとんとすると、幸ちゃんは焦ったように気にしないでと手を振った。
「あ!そういえば俺、今から寮に行かないと。記憶喪失になったから同室の奴にも説明しないといけないんだった」
「そうだよね、寮の同室の人とも1回は顔合わせているんだし突然知らないって言われたらびっくりされちゃうもんね。夏澄くんの同室って誰なの?」
俺は西園寺先生から貰った資料を取り出す。
「えーと……あ、あった!同室の名前は上矢蓮……」
「か、上矢蓮!?ほんとに?!」
「へ?う、うん。どうしたの?」
幸ちゃんが顔を青くして上矢蓮…と同室の奴の名前を繰り返しながら、すいすいとスマホを操作する。
「やっぱりそうだよ〜!上矢蓮ってすっごい不良で有名で、中学時代は学校のトップやってたらしくて入学式でも上級生に喧嘩売られて6人相手に1人で勝って、挙句1人を病院送りにして2日間謹慎になってる…」
ふるふると震える手でスマホを握る幸ちゃん。
「えっ!?俺そんな危険人物と同室なの?!」
「うん…噂話によると相手が6人がかりだったことと相手から喧嘩を売ってきたこと、上矢蓮の親が権力かけて2日間の謹慎だけで済んだんだって…大柄で金髪、つり目でピアスが沢山空いてて、気性が荒く手が付けられない…」
次々に出てくる恐ろしい情報に心臓が縮む。いやいやなんで俺の高校生活こんな前途多難なんだ??
「で、でも1度会っていてその時は無事だったんだから大丈夫…なのかな?」
「……そう信じたい」
今からそいつに会いにいかなくてはいけないどころか、これから3年間ずっと一緒に生活しないといけないというのに。
同室の奴が風邪をひいているから世話をするという幸ちゃんと別れ、俺は自室までの廊下をとぼとぼと歩いた。幸ちゃんは最後までついて行こうかと言ってくれたが、予定がある幸ちゃんをまた連れ回す訳には行かない。
最初のコメントを投稿しよう!