新しい出会い

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── ついちまった。 ドアの前に立ち、深呼吸した後にカードキーを差し込む。ピピ、と機会の音がした後にドアからガチャリと鍵の空いた音。 「…誰かいますか〜」 小さな声で部屋の中に呼びかけると、バタバタと騒がしい音がして同室の上矢蓮が出てきた。本当に金髪でつり目で、ピアスが耳に空いていて。…本物だ。 多少ビビっていると、上矢蓮は俺の事を見て酷く嬉しそうな顔をしている。 「カスミ!今日帰ってくるって本当だったんだ……よかった、俺ずっと待ってたんだよ」 震える声でそう言ったかと思うと次の瞬間俺は上矢蓮の腕の中にいた。 ……待て待て待て。 状況が1ミリも理解できないんだが。 上矢蓮は誰もが恐れる不良じゃなかったのか??これじゃまるでおっきなわんこだ。 そしてなんで俺は抱きしめられている? 1日か2日しか面識はないはずなのに、もう下の名前で呼ばれる間柄だったのか? 待ってたってなんの事だ。 色んな考えが頭をめぐって呆然としていると、しゅんとしたように眉を下げた上矢蓮が俺を抱きしめたまま俺の顔を見つめてきた。 「なんで黙ってるの?カスミ。この前みたいに頭撫でてくれないの?」 ── 待ってくれ、今の一言で余計に状況が分からなくなった。俺と上矢蓮はどんな関係なんだ!?もしかして昔からの友達とか…? 「…俺、カスミとの約束守ってカスミがいない間もちゃんといい子にしてたよ?」 「ちょ、ちょっと待って。俺が事故にあったことは知ってる?」 「…?うん。心配してた」 「その……言いづらいんだけど、俺事故で頭打って記憶喪失なんだ。人に関する記憶がすっぽり抜けちゃってて……だから、ごめん。お前のことも俺、分かんないんだ」 俺がそう言うと、上矢蓮は目を見開いてショックを受けたような表情になったあと、泣きそうな顔をした。 「じゃあカスミ、俺の事怒ってくれたのも忘れちゃったの…?」 辛そうで今にも泣いてしまいそうな表情に、胸が苦しくなる。今日何度か味わった覚えていないと言った時にみんなが見せる表情。程度は違えど「忘れられた」事に対するショックは誰にでもあって。凄く申し訳ない気持ちになる。 「…ごめん。俺と上矢、どんな関係だった?」 「ううん。カスミが悪いんじゃないから。あと、カスミは俺の事蓮って呼んでくれてたから蓮って呼んで…」 「うん。じゃあ蓮って呼ぶ」 蓮と呼ぶと、つらそうな顔に少し嬉しげな色が灯る。手の付けられない不良だと言ってたけどとてもそうは見えない。 俺の一言で喜んだりしょげたり、確かに見た目は不良っぽいけど大型犬にしか…。
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