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医者から経緯を説明される。
なんと俺は、高校入学して2日目で轢かれそうな猫を助けようとして自分が車に轢かれたらしい。猫は無事だったようでなにより。
それでそこから3日ほど意識不明だったとか。幸い思いっきりぶつかったわけではないので体の方に大きな怪我はないが、当たって倒れた時に頭をしこたま打ったとかでそこで記憶を失ったようだ。
俺の場合は記憶喪失とは言っても、一般常識は覚えているが人の名前や顔、自分のことについてごっそり抜けてしまっているらしい。
そこでさっき泣きながら手を握っていた2人が自分の両親だと知った。
「── 記憶が戻る保証はありません。」
医者からの言葉に、母親らしき人物がまた抑えきれないように涙を流す。父親は母親の肩を抱き、お通夜のような雰囲気だ。
「まぁ記憶はなくなったけど生きてるんだし、これからまた取り戻せば平気だって。で、高校2日目で事故ったんだっけ?体は怪我してねーし高校行かないとな」
「高校?!行かせられないわ!また夏澄ちゃんが事故にでもあったら……」
うう、とハンカチで涙を拭く母親。
「だ、大丈夫だって。これからは気を付けるから…」
正直事故った記憶すらない俺は全然事故の実感が湧かない。
「…優花、気持ちは分かるけど僕達の考えだけで夏澄の限られている若い時の時間を奪うのはどうなのかな。今回の事だって夏澄が寮から抜け出しての出来事だったと聞いているし、学園内にいれば車の事故もないよ」
抜け出した?!2日目で?!
事故る前の俺何してんだよ?!
優花さん…俺の母親は未だ納得いって居なかったようだが、泣き止んで俺の手を握った。
「もう絶対に危ないことはしないのよ、夏澄ちゃん。貴方は私の宝物なんだから」
「…うん」
記憶はないけど母親の手の温もりには何か懐かしいものを感じて、俺はそっと手を握り返した。
体に支障はないが、記憶喪失なので定期検診を受けることを約束させられ、俺はその後2日間休養したのち退院し、また学校に通うことになった。
驚いたのは俺の両親は大きな会社の社長で、俺は金持ちの家の息子だったという事だ。寮に戻る前に家で少しすごしたが家が広すぎて何度も迷子になりかけてメイドさんに助けられたりした。
それから、鏡でみた自分の姿が凄く女っぽかったのも驚きだった。色も白いし目もでかいし体も華奢で、自分の体なのに自分の外見も覚えていなかった俺は鏡をみて固まったくらいには驚いた。
学園は全寮制だというが、寮に戻る前にやっぱり両親に泣きつかれてしまった。この2人、相当夏澄を溺愛していたらしい。
……大丈夫かなぁ、俺の人生。
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