500人が本棚に入れています
本棚に追加
✱涼宮視点
夏澄が出ていったあと、俺は思わず舌打ちをした。神宮寺も珍しく苛立ちを表に出しているようで床を見つめている。
──── いつかこうなる事は分かっていた。
それなのに、予防出来なかった自分に腹が立つ。
この学園は全寮制で沢山の生徒達が校舎の中に集められている。年頃の、欲をもてあました男たちが欲を発散するために利用するのは華奢で見目のいい奴だ。
夏澄は思い切り狙われるタイプ。
分かっていたのに、夏澄にまた出会えた事に喜んでその可能性を忘れていたとは。しかも俺達が夏澄を気に入っていると周知され、夏澄に注目があつまるこの時期に。放課後迎えに行っていれば…そんな簡単な対策を怠ってしまうなんて。
今回は未遂ですんだが葵が通りかからなければ間違いなく服を脱がされた程度じゃ終わらなかっただろう。想像するのも腹が立つが。
「…葵が探し出すのは難しいと言ってたな」
「ええ、まぁ。この学園は生徒数が多いですからね。その中で学年も分からない生徒を見た目だけで探すというのは現実的ではありません」
神宮寺はそこまでいうとふう、と溜息をつき、次ににやりと冷たい笑みを浮かべた。
「私達相手でなければ、の話ですが」
「……何か策があるんだな?」
俺もつられて笑う。
俺自身も勉学でいえば頭は悪い方ではないが、コイツには敵わない。こいつは勉学だけではなく悪知恵であったり作戦であったりそういう方面にも頭が回り、おまけに人を操るのに長けている。
「ええ、必ずとは言えませんがほぼ…80%の確率で見つけ出せるかと。まず、私と貴方の親衛隊を利用させてもらいましょう」
「…親衛隊をか」
「親衛隊に私と貴方を不愉快にさせた人間がいるので探してくれと頼みます。ここで夏澄さんの名前は出しません。
なぜなら、親衛隊の中には夏澄さんが私たちのお気に入りになりそれに嫉妬している人間も多数いるはず。名前を出さないことで親衛隊の士気を下げないようにします。
次に葵から聞いた外見を伝えます。生徒会のお気に入りに手を出すことを誰も止めなかったという事は明らかに類は友を呼ぶ…でしょう。いつも3人でつるんでいると予測出来ます。
学年が分からなくてもしらみつぶしに1つずつ探せばそんな3人組、探し出せないほどではありません。明日以降髪色を変えた人間がいないかの確認も行います。」
…よくもまぁ一瞬で考えつくもんだ。夏澄への配慮や、髪色を変えて逃げることさえも予測して。
「親衛隊の方々は私たちの役に立ちたいと思ってくださっているでしょうから、快く引き受けてくださいますよ。ご褒美に手でも振ってあげましょうかね」
クスクスと笑う神宮寺の今の顔を見たら親衛隊の奴らも一般生徒も倒れるんじゃねーか?コイツ、表では「優しくて麗しい副会長様」で通ってるし。何が優しいだよ、俺も親衛隊の事はチワワ共くらいにしか思ってねぇけど、コイツは完全に駒扱いだ。
「私は未遂であっても手を抜くつもりはありませんよ。貴方もそうでしょう」
「……当たり前だ。さて、俺は学年毎にネクタイの色を変えるっていう案を学園長に直に突きつけてくるとすっか」
俺は立ち上がり、ポキポキと首を鳴らした。神宮寺に「捜索の件はお前に任せる。俺の親衛隊も自由に使え」とつたえ、生徒会室を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!