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有り得ない初日
……でかい
でかすぎる。
俺は高校の門を見てあんぐりと口を開けていた。
自分が金持ちだった頃の感覚を忘れ去った俺は庶民のような感覚しかなくて、自分が通う学園が金持ちが集う学園だと言うのを半ば忘れかけていた。
門の警備の人?に事情と名前を行って門を開いてもらうと、門からは道が続いていて、チラホラと校庭にいたらしい生徒達が俺を見て何かヒソヒソ話したりジロジロ見てきたりする。
なんだよ!?感じ悪いぞ!?
金持ちってこんなもんなのか?
俺は周りからの視線を頑張って無視しようと、地図を見た。えーと、まずは職員室に向かうんだったな……。記憶喪失の前の俺は2日間通ったみたいだが、俺からしたらこれが高校初日だ。友達出来るだろうか。
「おい!」
どこからか大声で誰かを呼ぶ声がする。俺の事ではないだろうと地図を見続けていたら、肩を思いっきり後ろに引かれた。
「お前だよ!顔を見せ…」
乱暴な扱いに怒って睨むと、俺を引っ張った男は目を丸くして俺を見た。
── すげぇイケメンだな。
最初に思ったのはそれ。黒髪を今どきにセットしていて、切れ長の瞳からは綺麗なグレーの瞳が覗いている。鼻筋も通っていて、唇も薄くて身長も高い。芸能人みたいなイケメンが俺の目の前に立っている。
……もしかして記憶を失う前の俺の知り合いか?
そんな事を思っていたら、目の前の男がワナワナと少し震えている。
「おい、大丈夫かよ」
「……つけた」
「は?」
「見つけた」
そう言うがいなや、イケメンは俺の顎を手で持ち上げ── 俺にキスをかました。
「んんんんん!!!??」
待て待て待て待て!!!!
見つけたってなんだよ!?
そんでなんで俺はキスされてるんだ!?!
しかも公衆の面前で!!いや気にするところはそこじゃないが!!
周りからは悲鳴にも似た大声が上がっているがそんな事を気にしている場合ではない。
イケメンは挙句に舌を思いっきり入れてきて、角度を変えては貪るようなキスをしてくる。舌で上顎をなぞられたりすると、ぞくっときて変な声が出てしまう。
「んっ、ふ…やめ…」
ぎらりと欲情したイケメンの瞳と目が合う。不味い、逃げなくては。
俺は懇親の力を込めてイケメンの鳩尾に肘を入れた。鈍い音がしたあと、イケメンが痛そうに鳩尾を抑える。
「何すんだテメー!!!ふざけんな!!!俺のファーストキスを返せ!!!!!!」
俺は涙目で叫び、動かない足を頑張って動かして走って逃げた。後ろでイケメンが何かを叫んでいたが聞かずに逃げた。
記憶が無くなっていたから、もしかしたらファーストキスではなかったかもしれないがこの俺になってからはファーストキスだったのに。公衆の面前で、しかも男…。くそぉ、悔しくて情けないけど涙が出そうだ。
もしかして事故前の俺が学園から逃げ出したのはこれが原因だったのではと妙に納得が行く答えが出る。
走って、俺は校舎の入口のような所でぜぇぜぇと息を着いた。このほっそい体じゃ全然走れない。さっきのみぞおちエルボーだって、いいところに入っていなかったら効いていなかったかも…。
俺はそこから地図を回しながらなんとか職員室に到着した。
「失礼しまーす。ええと、西園寺先生はいらっしゃいますか」
父親から教えて貰っていた担任の名前を呼ぶと、1人の男の人がやってくる。
…………なんだこのイケメン!?
この学園、イケメン多くないか?
そう思ってしまうくらい先生とやらの顔は整っている。黒髪を後ろで束ねたその先生は、整った顔立ちにメガネをかけて、伏し目がちで妙な色気を漂わせている。
「ああ、橘。話は聞いてる。記憶に障害が出たと聞いたが……大丈夫なのか?」
「ええと…大丈夫かは分かんないんですけど、とりあえず体には支障はないしどうせ2日目までしか行ってないから人間関係もまだそんなに出来上がってないでしょ?だから大丈夫です!多分!」
俺が謎の自信に溢れた返事をすると、先生は優雅にふふ、と笑った。
「なんだか記憶がなくなる前よりヤンチャになった気さえするな。何か困ったことがあったら俺が……手取り足取り、教えてやるよ」
妖しげに笑った西園寺先生が人差し指で俺の顎をつつ、と持ち上げる。
「……へ、変態教師…!」
俺がパシンと手を払うと、西園寺先生がポカンとした後さっきみたいな妖しげな笑顔ではなく顔をくしゃ、と楽しげに笑った。
「はは!俺にそんなこと言ってきたやつ初めてだわ。お前面白いなぁ、食われないように気をつけろよ」
「次はカニバリズムの話ですか……?俺そういうのはちょっと…」
「ちげぇよ!ったく笑わせんなよ」
俺の言ったことがそんなに面白かったのか、西園寺は楽しげに俺の頭をファイルで軽く叩いた。西園寺先生の言っていることが全然分からない俺は頭を悩ませながら西園寺先生の後について行った。
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