有り得ない初日

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教室に入ると、ワーッと歓声があがった。それに驚いていると、男共から「姫ー!」だとか「帰ってきた!」とか色々聞こえてくる。……ひ、姫? というか男しかいないのは何故だ。 ……そういえば門をくぐってから今まで、男しか見ていない気がする。 「西園寺先生、なんで男しかいないんすか」 「はぁ?ここ男子校だぞ。それすら忘れたのか」 だ、男子校っ……だと!?! 嘘だ、男しかいないむさ苦しい中で高校生活を過ごせって言うのか!? 俺はがくりと肩を落とす。 西園寺先生が俺の記憶喪失の事を簡単に話してくれたからか、さっきまで騒いでいたヤツらも少し大人しくなった。 席に着くと隣の席の可愛い男の子が話しかけてくる。焦げ茶の髪の毛にぱっちり二重、小さな鼻に唇。…女の子と思うくらい可愛い。 「夏澄くん、僕城坂幸(じょうさかゆき)。…ぼ、僕の事も忘れちゃった…んだよね?」 「あ……ごめん。人に関する記憶が抜けてて、自分のこともあんまり思い出せない状態なんだ。もしかして友達だった?」 「う、ううん!辛いのは夏澄くんだから…僕ね、お友達ってまで言えなかったかもしれないけど席が隣だから夏澄くんが話しかけてくれたんだ…それから事故で入院しちゃったけど、もっと仲良くなりたいなって思ってたから…帰ってきてくれて嬉しい…」 ……なんていい子なんだ……。 顔が可愛いだけじゃなくて性格まで可愛いなんて。決めた、男子校で女の子もいない中俺のエンジェルはこの子だけだ…。 「じゃあ今日から友達。いい?」 「うん!!」 幸ちゃんは嬉しそうに笑う。それを見て思わず俺も笑顔になる。俺が笑うと幸ちゃんが少し顔を赤くして俯いた。…どうしたんだろ? ふと視線をあげると、周りの男子生徒の多くが俺たちをニヤニヤと見つめていた。生ぬるい視線に嫌な気分になって顔を顰めた。 それに気づいたのか、幸ちゃんがカタンと立ち上がる。 「ちょっと、夏澄くんになにかしようって言うなら許さないから!夏澄くん病み上がりなんだからね!分かってる!?」 …………幸ちゃん、見た目と違って結構男前……!そんな所も可愛いけど!!ていうかなにかしようってなんだよ!? 幸ちゃんに叱られた男どもはわ、わかってるよ〜なんていいながら顔を逸らす。 どうなってるんだこの学園は……! いくら記憶が無くなってるからってちょっと異常な気がする…。 ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ 授業が進み、昼休み。 幸ちゃんが一緒に食堂に行こうと言ってくれて、席をたとうとしたその時。 「ねぇちょっと聞いてもいい?」 メガネをかけてカメラを持った、マッシュルームヘアーの男の子が声をかけてきた。 「ん、どうした?」 「あのさ、君が今朝門の傍でキスをしていたって噂になってるんだけど付き合っているの?」 せっかく忘れていた屈辱の今朝を思い出し、俺はゲロを吐きそうになった。 「そんなわけあるか!俺は男だぞ!?勘違いすんな、俺がキスしたんじゃなくてアイツが突然キスしてきたんだよ!!誰だよアイツ!?初対面なのにふざけやがって!」 怒りのあまりつらつらと喋ると、メガネくんが酷く驚いた顔をする。 「ええっ?!あの人が誰なのか知らないの!?」 「知らねーよ、確かにイケメンだったけどそんな有名人なの?」 「あの人……この学園の生徒会長だよ」 「……………………はぁぁ!?」 俺の大声は見事に教室中に響いた。
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