親睦会

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✱葵視点 いつもは人にこんな話しようと思わないのに、無理に話を聞いてこようとしない夏澄くんの雰囲気が心地よくてポロッと言葉が溢れた。 …話したってどうにもならないし困らせるだけなのに。 そう思うけど、誰かに聞いて欲しかったという気持ちもあって、言葉がどんどん出てくる。 「俺の家、夏澄くんは知らないと思うけど由緒ある家系でさ。親は厳しくて『高瀬家の跡継ぎとして自覚を持て!』ってそればっかりで…。小さい時から親と子供っていう関係性じゃなかったんだ。高瀬家の当主と、次期跡継ぎって関係性。 親に甘えられるわけもなくて幼少期はずっと親に叱られるのが怖くてビクビクしてた。少しでも失敗すると凄く叱られて蔵に閉じ込められたりして。 …俺、習い事を沢山させられていたんだけど、その中で唯一ピアノが凄く好きでね。ピアノにのめり込んで、将来ピアニストになりたいと思ったりもしたんだ。でもそれを親に言ったら激昴されちゃってさ。高瀬家の跡継ぎとしての自覚がないのか、何がピアニストだ、職にしようとなど考えるなって散々。 それでどんどん親のことも、っていう括りにも拒否感が出るようになっちゃって…。」 そこまで言って昔のことを思い出すと、心臓をギュッと掴まれたような感覚になる。情けない話なのはわかってる。でも俺は、金持ちの家に生まれることなんて望んでなくて、普通の親と子供の関係を持っているよその普通の家庭が羨ましくて仕方なかった。 「ほら俺、仲のいい人には下の名前で呼んでって言ってるでしょ?あれもそう。高瀬って呼ばれるのが嫌なんだ。 親に頼んで全寮制の学校に入学したんだ。あの家にいたくなくて俺は逃げたんだよ。でもここに来ても周りから言われるのは『あのの跡継ぎ』って事ばっかり。結局、俺の後ろには高瀬家が染み込んでてそれから逃げることなんて出来ないと思った。 …でも、夏澄くんと出会った時に……。夏澄くんは何も知らなくて、凄く心地よかった。変な言い方だけど息がしやすいって思ったんだ。…だから、今回無理を言って一緒に居てもらってる。…ごめんね、変な話して、こんな事に付き合わせちゃって」
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