親睦会

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俺がそう言って夏澄くんをみると、話している俺よりも夏澄くんの方が辛そうな表情をしている。 「ど、どうしたの夏澄くん?何か嫌だった?」 「……そうじゃなくて…葵さん今まですごく頑張ってきたんだなって思って……」 「……!」 「……辛かったですよね。俺でよければいくらでも話くらいは聞けるので、いつでも言ってくださいね。」 そういって俯いてしまった夏澄くんを呆然と見つめる。 ……初めて、そんなこと言われた。 周りにはお金持ちしか居なくて、子供の時から厳しく育てられた人も多い。だから俺がこんなことをいっても「そんなの当たり前」「何を甘えたことを」としか思われなかった。…それで俺も人にはこのことは言わないようにしてきたんだ。 親のことが嫌いだ、高瀬家の看板を背負うのが嫌だって言ったって、結局親のお金でこんな豪華な学校に入学して、広い寮の部屋に一人で住んで、着るものにも食べ物にも困らずに生きてきた。 だからこの悩みはだと思ってた。 ……頑張ってきたって思ってもいいんだ。 そういう思いがじわじわと溢れ出てきて、俺は思わず夏澄くんを抱きしめた。夏澄くんが驚いたように体を揺らしたけど、少しすると俺を落ち着かせるようにそっと抱き締め返してくれる。 事故で記憶喪失になって自分が一番大変なはずなのに、俺の事をそう言ってくれる夏澄くんの優しさに今は甘えていたいと思った。
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