有り得ない初日

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「……はぁぁぁぁ!?」 俺の大声が教室中に響いた。 「この学園生徒会長ホモかよ!!」 今朝キスをされた嫌な思い出が蘇りつい声がでかくなってしまうと、幸ちゃんにもメガネくんにも驚いたような顔で見られる。 「…嘘でしょ、何も知らないの?」 メガネくんが怪訝そうに俺を見る。 ……何も知らない?何を? 「あのね、夏澄くん事故で記憶喪失になっちゃったんだよ。そのせいだと思う」 救世主の幸ちゃんが俺の事を説明してくれる。最後に、ボソッと小さい声で「まぁ記憶喪失の前からだいぶ鈍い感じだったけど…」という言葉が聞こえたがなんの事か分からなかった。 「あぁ、入学2日目の夜に交通事故に合ったって人がいたなぁ。君の事だったんだ」 メガネくんが納得したようにメガネを指で持ち上げる。 それからメガネくんが説明してくれた内容は、俺の絶望感を煽るにはもってこいの物だった。 まず、ここは男子校の全寮制で男同士で付き合いやセックスをする人達が多いということ。 次に、ここの生徒会は金持ちカーストのトップが集まった場所であり、学園内で圧倒的に権力があって簡単に人を退学させたり親の圧力をかけたりするということ。 生徒会には親衛隊がついていて、今朝俺が生徒会長にキスされた事で生徒会長の親衛隊が俺の事をよく思っていないだろうということ。 ……なんでだよ!キスされたのは俺の方で、むしろ謝って欲しいくらいなのに。 一通り聞いて俺は脱力した。 2日目にして抜け出した俺の気持ちが少しわかった気がする。いや、そのせいで抜け出したのかは分からないけど。 メガネくんは新聞部だそうでスクープの匂いを嗅ぎつけてやってきたという。新聞部に戻って新聞をかくと、手を振って行ってしまった。 食堂に向かいながら、俺はハッとして幸ちゃんに問いかけた。 「幸ちゃん可愛いから気を付けないと!」 それを聞いて幸ちゃんが可愛い顔を歪めて俺を見る。…あ、いくら幸ちゃんが可愛い顔をしているからって今のは男のプライドを傷付けてしまっただろうか。小声でごめんと謝る。 「違うの、心配してくれるのは嬉しいけど夏澄くんの方こそ気をつけて?」 「俺?なんで俺が気をつけるの?」 きょとんとすると信じられないような目で見てくる幸ちゃんに頭の中でひたすらはてなを作りながら歩いた。
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