親睦会

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✱夏澄視点 一時俺を抱きしめていた葵さんは、時間が経つと大きく深呼吸してパッと俺から離れた。いつも優しげな微笑みを携えている葵さんが離れた時顔を赤くして照れていたのが少し意外で、俺もちょっと恥ずかしくなった。 それにしても葵さんにそんな事情があったなんて。俺は記憶はないけど、両親に溺愛されて来たんだろうというのは反応から分かったからそんなこと考えたことがなかった。 お金持ちの家っていうのは、子供が家に相応しいようにと厳しい教育がある事もあるんだ……。いくら親が子供のためにやっていたとしても、きっと子供からすれば辛くて仕方ないはずだ。 葵さんも辛いながらも俺に話してくれたんだろうけど、俺が聞いていい話だったのかなぁ…。 そう思いつつ、何か葵さんに気の利いた事を言えないかと思いあぐねていると葵さんが俺を見ていつもの様に微笑んだ。頬の赤みが引いているところから、照れが消えたのが伺える。 「…ごめんね、こんな話して。それに子供みたいにその…抱きしめちゃったりして…」 気まずそうにそう言ってくる葵さんがどこまでも葵さんらしくて、俺も思わず微笑んだ。 「いいえ。そんな話俺が聞いちゃっていいのかなって心配はありますけど…葵さんが少しでもスッキリしたならよかったです」 そう言えば、また少し目を細めた葵さんが俺の頬をそっと手で撫でた。 壊れ物を触るかのような優しい触れ方と、葵さんの整った顔が近くにあることに今度は俺の頬が赤くなるのを感じる。 ……イケメンって凄い。 「…夏澄くん、優しいね。皆が夏澄くんを好きになるの分かるな」 「皆?誰かそんな人いましたっけ…?」 「…これは前途多難だなぁ…」 俺がはてなを浮かべている横で葵さんは苦笑いをしている。俺には全く心当たりがないのだが、どうやら俺を好いてくれている人がいるらしい。…男子校なので好かれても困ってしまうんだけど。いや、別に恋愛の好きとは限らないか。友愛的な事かも…。 最近この学園に染まってきたのか、ついつい好きだのなんだのを恋愛感情で考えがちになってしまった。ぶんぶんと頭を振り自分の中の考えを正そうとする。
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