親睦会

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「…夏澄くん。なにか聞こえない?」 葵さんが真面目な顔つきでそう囁く。俺も耳を済ませてみれば、どこからか足音がこちらへ近づいてきている。 ……また追いかけっこか…。 少し休んだとはいえ体力は充分じゃない。運動も得意ではない俺からすれば地獄のレースが始まるようなものだ。うう、走りたくない……。 じっと息を殺して様子を伺う。廊下の奥から複数の足音と喋り声。……あれ、この声聞いたことがあるような……。 壁から少しだけ顔を出して見る。……Tシャツの色は…黄色だ! 逃げる側の人間だとわかりホッと胸を撫で下ろす。まだ逃げなくてもよさそうだ。 「…あ、神宮寺先輩と環」 葵さんが小さく呟き、身を乗り出した。 相手側も俺たちに気づいたようで小走りで近づいてくる。 「涼先輩、環さん!逃げる側だったんですね」 「はい、本当は鬼が良かったんですがこればっかりはクジですからね…」 ふう、と疲れたようにため息をつく涼先輩。そういえば、涼先輩も体育会系って感じじゃない。むしろ知的な理系って感じだ。走るのが苦手なのは俺だけじゃないかも……。 「私は体力がある方じゃないですし、環ものんびり屋さんですから。まぁ頭脳的に逃げ回っているのでダメージは少なく済んでいますが…」 「…………2人とも、お疲れ様…………これ、あげるね……」 環さんはそういってポケットからガサガサと飴を取り出した。塩分補給と袋にかかれている飴を、俺たちの手にひとつずつ乗せる。 「…………ねっちゅうしょー、気をつけてね…?」 そういってほにゃっと笑う環さんに正直俺はメロメロだった。……可愛い。環さんのこの大型の動物っぽさと優しさが相まって、さながらアニマルセラピーを受けているような気分だ……。 そんな癒しの時間もつかの間、涼先輩から悲しい現実を突きつけられる。 「葵と夏澄さんも逃げた方がいいですよ。先程、鬼側の生徒が複数人旧校舎に入って来ていましたから。裏から逃げれば今ならまだ間に合うはずです」 「…ありがとうございます。まさか神宮寺先輩が敵に助言をくれるなんて思いませんでした…」 葵さんがそういうと、涼先輩はため息を着く。 「一般生徒に残られるよりも生徒会の人間に残られた方がリスクが減りますので。……それに葵。私はあなたの事も気に入っているんですけどね?伝わっていなかったようで残念です」 にや、と意地悪に笑った涼先輩は俺の方を見ると頭をぽんと撫で、にこやかに環さんと去っていった。 「……神宮寺先輩って結構キザだと思わない?」 葵さんがまた苦笑いしてそう呟く。俺も少し笑うと、その場を歩き出した。俺は旧校舎の仕組みが分かっていないので葵さん頼りになってしまうが、ここからは離れた方が良さそうだ。
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