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鬼がいないか当たりを見回しながら旧校舎をそっと抜け出すと、熱い頬を冷ましてくれるようにこの時期にしては冷たい風が通り抜けていく。
腕時計を見ればそろそろ3時を回るところだ。
この親睦会は13時から18時までだから、あと3時間逃げ切れば勝ち残りかぁ。でも、もし抽選で選ばれたとしてもデートに誘いたい人なんていないし。
……というか、自分の知りあいの顔を思い浮かべればどれもこれも有名人ばかりで、選んだ途端に親睦会からブーイングされる事は明らかなわけで……。
うん、その時は蓮を指名しよう。蓮も俺を誘うとか言ってくれていたし……。
俺がそう思いながら葵さんの後を歩いていると、バタバタと逃げる側のTシャツを着た子達が駆け抜けていく。それも1人や2人ではなく、複数人だ。
見たところ番号札を首から下げていないので脱落した子達なのだろうが、脱落したわりには酷く嬉しそうで盛り上がっている。
「やばい!俺の事選んでくれるかなぁ?」
「分かんないけど賭けるしかないよね」
不思議な事を言って横をとおりすぎていくその子たちはまるで恋する乙女かのように両手を頬に当て、キャーキャーと騒いでいる。
……恋バナでもしてんの…?
「生徒会の誰かかな…」
葵さんがぽつりと呟く。
「生徒会?」
「うん。生徒会って人気でしょ。で、生徒会のメンバーが鬼になったら自分から番号札を渡しに行く子が結構いるんだよ。自分たちをデートに誘ってくださいって言いながらね」
なるほど。だから賭けだとか、選んでくれるかなとか言っているんだ。そう思えば随分微笑ましくも感じてくる。
男に男の親衛隊がついていて、しかも大勢が恋愛をしていてっていう気迫に押されがちだけど結局親衛隊だって純粋に生徒会の誰かのことが好きなだけなわけだもんな。
──── ガサッ
横の茂みが突然音を立てる。びっくりして葵さんの腕にしがみつくと、葵さんも音に気づいたのか訝しげに茂みを見つめている。
すると、次の瞬間茂みから大きな影がぬらりと現れた。声も出せずにそれを見つめたあと、見知った顔に俺は思わず声を上げた。
「──── 蓮!?」
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