デート

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颯斗先輩が当然頬にキスして来たから、俺はそれから全く映画に集中出来なかった。相変わらず俺をじっと見てくるから左横が気になって仕方なくて無駄に心臓がバクバクして、早く蓮が起きてくれないかなって思い続けていた。 映画がそのまま終わり、エンドロールが流れる中俺は颯斗先輩の顔を見れず必死に蓮を揺り起こした。 「……んん、ふぁぁ…寝てた……」 眠そうに目を擦りながら起きてくる蓮にホッとしつつ、蓮が起きててくれればあんな事にはならなかったのに……!とちょっとジト目で蓮を見た。 映画館から出て、いつまでも颯斗先輩を意識してる訳にも行かないと深呼吸する。 「つ、次はどうするんですか?」 少しどもったけど颯斗先輩にそう聞く。颯斗先輩が何か言いかけたところに、蓮が口を開く。 「……あれ食べたい」 指さした方には移動式のアイスクリーム屋があった。 「アイス?蓮甘党だもんな。食べよっか」 丁度お腹が空いてきたし冷たいものも食べたい。俺がそう笑うと蓮も嬉しそうに笑った。甘いものが得意でないのか、颯斗先輩は苦そうな顔をしていたけど。 それぞれアイスを選ぶ。俺は食べるのが遅いのでコーンではなくカップに入ったスプーンで食べるものにした。近くに椅子とテーブルがあったのでそこに座ってちょびちょびとそれを食べていると、蓮がじっとこっちを見てくる。 「どうした?」 「……カスミのも美味しそう…」 あぁ、とアイスを見る。俺のは新商品とかで爽やかな風味の柑橘系。蓮が頼んでいたのは濃厚バニラ。他の味も食べたくなったんだろう。 「いいよ、ちょっと食べる?」 俺がそう言ってカップを渡そうとすると、またもや蓮が俺をじっと見てくる。 「な、なに?」 「……カスミ、あーんってして」 「……えっ」 突然の発言に颯斗先輩をチラッと見ると、颯斗先輩は蓮を睨みつつもさっき俺の頬にキスして精神的マウントがあるのか何も言ってこない。…いや言ってきてくださいよ。いっつもくだらない事で言い争いしてるのになんで今だけそんな余裕そうな顔してるんですか! 颯斗先輩も蓮も見目がよくて華やかだから、さっきからずっと周りの女子たちの視線が熱い。そんな中で蓮にあーんするのは…その。かなり羞恥プレイなんじゃなかろうか…。 流石にあーんは嫌だなぁ〜って蓮をそろっと見上げても、いつもみたいにわんこのうるうるした瞳でやってくれないの?と見つめてくる。……ううう、俺はその目に弱いんだよ……! か、覚悟を決めよう。ちょっと物を食べさせるだけだ。これは餌やりだ。 半ば酷いことを考えつつも、スプーンでアイスを掬って蓮の口元に向けた。 「…カスミ。あーんは?」 ……蓮……!!!お前そんな子じゃなかっただろ、そんな……そんな俺を辱める子じゃ無かった……。 そうは思っても蓮も引いてくれそうにない。俺は顔が熱くなるのが分かりつつ、か細い声を絞り出した。 「あ、あーん……」 「ん、美味しい」 …………今すぐここから立ち去りたい…。 俺が蓮にあーんしたら何故か女子達から悲鳴があがり、俺の顔はますます赤くなるばかりだった。
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