有り得ない初日

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「おい」 そうやっていれば後ろからは涼宮と呼ばれた生徒会長の声。嫌々振り向くと、涼宮は後ろのチワワを睨んでいるようだった。 「コイツに触るな」 低い声で涼宮がチワワにそう言うと、チワワ達は「涼宮様…で、でも…」と泣きそうな顔で涼宮を見つめている。 「おいっ、可愛い子に凄むなよ!泣きそうじゃんか。俺はどうもしてないから平気だって」 俺がそういうと、涼宮もチワワも幸ちゃんも野次馬のように見ていた男たちも目を丸くして俺を見た。…そりゃ可愛い小さい子とデカい男がいて、でかい方が小さい方睨んでたら小さい子庇うだろ。俺はおかしい事はしていないはずだ。 「……すまん」 思ったよりも素直に涼宮が謝ると、またもや周りが大きくざわめきだった。チワワ達は恐れ多いように涙目で「ごめんなさい!」と散り散りに去っていく。 突然の出来事にポカンとしていると、涼宮が俺の肩を掴んで目を見つめてくる。 「…今朝はすまん。急ぎすぎた。」 「思い出させないでくれ、黒歴史なんだ」 俺が死んだように言うと少し傷ついた様な顔をして(いや傷付いたのは俺だよ)、俺の目をじっとみる。 「話したいことがある。放課後生徒会室に来い」 「…それよりお前誰だよ?初対面なのにキスしてきたり生徒会室来いとか意味わかんねぇ」 思ったよりも話が通じるやつだと思った俺は、単純に思っていたことを口に出した。その途端顔色が変わる。 酷く傷ついた様なその表情に、俺は狼狽えた。 「……じゃない」 「え?」 「初対面じゃない」 絞り出したようなその声。 もしかして、俺の知り合い?頑張って記憶を辿ろうと必死に考えるが、何も思い出せない。考えていると突然頭に激痛が走った。 「〜っ、」 頭を抱えて顔を顰めると、心配そうに俺を見る。 「あのっ、涼宮様!実は夏澄くん事故にあって記憶喪失で人のこと覚えていないんですっ!た、多分今無理に思い出そうとしてるから…」 それを聞いて涼宮は動揺したように俺を見つめ、俺の頭を撫でた。暖かいその手に撫でられると、頭痛が少し納まった気がする。 「…そう、だったのか。どうりで学園内を探してもお前の顔がないと…。…もう時間がないな。とにかく生徒会室に放課後来い。その時に色々話す」 「……」 俺が返事をしないでいると、涼宮は俺の手を握り「待っている」とだけ残して、親衛隊を引き連れて去っていった。 嵐のような出来事に少しの間放心していた俺と幸ちゃんだったが、昼休みが終わるチャイムの音で我に返り慌てて教室に走った。
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