スノースマイル

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 しかし其処に、いつかの向日葵の少女は居ない。  だけど代わりに居るのは、 「何? 独り言?」  いつかの白い天使と対を成す様に、全体的に容姿が紅い感じの女の子が一人。  袖口だけフリルの付いた紅と黒のワンピースで身を包み、彼女の胸元には白とピンク色のストライプ柄の大きなリボンを結んで、足元は紅いパンプスを履いている。  悪魔らしく彼女の背後には蝙蝠の紅い翼と、腰部から尾がぶら下がる様に伸びている。今にも消えそうな、でも消えない翼は儚げで透明に近い状態を保つ様に現れている。  色のせいかどこか向日葵の少女の面影がありそうな黒い髪はセミロングで項まであり、先端が内側に寄っている。更には過去の白い天使と同じ様に、左右に小さな弧から大きな滝を描くツインテールもあり、此方は足元のパンプスに辿り着くくらいにとても長い。 ──この彼女の事を云うならば、"紅い悪魔"だ。 「うん、独り言」  神の遣いとして格が上がったのか、装いが新しくなった白い天使は相変わらず笑顔を見せる事が無い。 「……人間だった頃の記憶でも思い出した?」 「まさか。そんなの思い出してもいないし、そうだった様な覚えすらも無いわ」  白い天使の脳裏では、向日葵の少女と一緒に居た記憶が浮かんでいた。今に繋がるまで記憶は巡って、  真夏の暑い日差しが強く眩しかった日、辺り一面には向日葵だけしかないところで初めて出会った向日葵の少女。  それから毎日、白い天使が無視しても絶やす事なく話し掛けてきた向日葵の少女。 (巡って)  とある日、彼女の目に気を付けていつもの様子を探ってみれば、向日葵を大事そうに育てて何か話し掛けてる向日葵の少女。  秋の涼しい風が吹いていた日、同じ様に彼女の目に気を付けて見てみれば、椅子に座って何かの本を読んでいる向日葵の少女。 (巡って)  白い天使が側に居ない時をどれも振り返ってみても、向日葵と本以外、誰一人も人間の姿が無い、一人ぼっちだった向日葵の少女。
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