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向日葵の海に溺れて
残暑有り余る、というのは可笑しい言い方かもしれない。でも、この感じを言い表すなら、不思議とこの言い方が適当かもしれないと思った。そういう季節になってしまった。
春頃に種を蒔いて、夏に私の身長を超えられそうなくらいに大きく育って、咲いた幾つものの太陽──向日葵たちに囲まれていた。
「……」
本日も晴れ日和だ。
燦々と輝く太陽がスポットライトとして、向日葵たちに当てて、更に輝いている姿はステージ上のアイドルみたいで、見ていると嬉々込み上げて来る。
一輪だけじゃなく、二輪だけじゃなく、もっと、
もっと。大勢で。……だけど。
「……もう、お別れだね」
お別れの時は必ず来てしまう。別れるのが悲しくて涙が一つ零れ落ちてしまった。そしてもう一つ、更にもう一つと、どうしても止まらなくて、向日葵たちの根元が涙で満ちていく。
気付いたら、私の胸まで浸かるくらいの海が出来てしまった。
「ゴメンなさい、ゴメンなさい……、……枯らしたくないのに」
私は向日葵たちに何度も謝った。でも未だ涙は溢れるばかりだ。
「……さよなら、したくないなぁ……」
向日葵たちに掛けてあげる言葉も止まらない。思いが比例する毎に涙の数も増えていく。
「……一つ、約束しても良い?」
心に何とか壁を作って、涙が落ちるのを無理矢理に止めた。向日葵を枯らさない様に、思い思い前向きに心の壁を強くしようとする。
「もう泣かないから、……また来年、この季節になったら、また会お?」
そう約束してもきっと、また会えない。
だってこの季節の時間は、その年に一度きりなのだから。
また同じ季節が巡って来たとしても、その時間に会う君はきっと、同じ様でも違う"君"。新しい種から生まれ育つだろう"君"だから、今の君に二度ともう会える事なんて無い。
……分かっていた筈なのに。そう考えてしまうと──
「……ゴメンなさい。やっぱり、また会えるなんて……」
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