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「だーめ。動いたらもっと痛いよ?」
男の言葉の意味を理解しようと混乱する頭で考えようとした矢先、男は片手を肩に置き、もう片方の手で反対側に頭を動かした。 首を晒している状態だ。
「手離しても、絶対に動かないでね。」
「え、な、なにっ …………っ!」
突如、首にちくりとした痛みが走った。架瑠は男を見ようと後ろに頭を向けた瞬間、急激な眠気と怠さに襲われ景色が真横になる。体から急激に体温が下がっていくのが分かった。ただ、顔だけが燃えるように熱い。
「おやすみ。」
その男の言葉を最後に架瑠の意識はぷつりと途絶えた。
『分かりました。ありがとうございます。』
電話口からその言葉を聞くと、助手席に座っている眼鏡をかけた男は静かにスマホを耳から離した。震える手でスマホを握りしめる。
「……どのくらいで着きますか、大輝(だいき)?」
「あと5分で着くぞ、薫。」
銀色のワンボックスカーを運転している大輝と呼ばれた大柄な男が硬い表情で言った。
「でも見ず知らずの人を助けちゃうなんて、すんごいお人好しなんだねーその人。」
後ろの座席に座っている金髪の男がスマホに目を落としたまま言うと、 隣から手が伸びてスマホを取り上げた。
「あ、ちょっとスマホ返してよー斗和(とわ)。」
「焦っている時こそ、スマホを置いた方がいいんじゃないかな?礼音(れおん)。」
「…そーだね。」
礼音がズボンのポケットにスマホを入れるのを見届けると、斗和は険しい顔で前を見た。
「でもまさかこんなことになるなんて思わなかったよね。対処法が思いつかない。助けてくれた男の子にも口止めはしないとだし。」
「今は、ボスと助けてくれた恩人の保護を優先に考えましょう。」
薫の言葉に全員が頷いた。
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