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「出血は多いけど死ぬ可能性はないし、後遺症も残らないと思う。」
薫が礼音のところまで走ると、礼音は応急処置を施しながら状態を話した。
「恩人くんは?」
「…少年に持たせたはずのスマホが公園内の公衆トイレの個室から出てきました。」
「ってことは、何らかのことに巻き込まれた可能 性が高いよね。多分、俺たちのせいだ。 」
礼音が手を止めて、悔しそうに言った。
「俺たちに関わっちゃったから。せっかく助けてくれたのに。」
薫は目じりに涙を溜める礼音にゆっくりと近づ き、少し乱暴に頭を撫でた。
「今はそれを言っても仕方ありません。 少年の救出を最優先事項にしましょう。」
「…そうだね。」
男に対しての治療を終えた礼音は車に男を運ぶよう指示を出すと、少し先を歩いていた薫を早足に追いかける。礼音が薫の隣に並んだ時、公園の外から構成員の声が聞こえた。
『薫さん、礼音さん!至急こちらまで来てください!』
2人は顔を見合わせると、構成員のもとへ走った。
公園を出ると構成員が2人、道路に立っている。 傍に行くと自転車が倒れ、鞄の中身が散乱していることが分かった。
「これは…。」
「…恩人くんの?」
薫はその場に膝をつくと、近くに落ちているものを拾い上げた。
「数学の教科書…。」
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