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『財布も落ちています!』
構成員の1人が鞄から青い財布を取り出す。鞄の中身は散乱しているものの、漁られた形跡はない。 突然礼音が声を上げた。
「生徒手帳あった!」
薫は急いで礼音の所に行く。礼音の手の中には男子高校生の顔写真と簡単なプロフィールが載っている。
「この高校って、結構頭いいんじゃない?名前聞いたことあるよ?」
「本郷架瑠。…高校2年生ですね。」
薫はゆっくりと立ち上がり、顎に手を当てた。
「持ち物を漁られていないところをみると、 目的は架瑠さんだった、ということですね。」
「…やっぱり俺たちのせいだ。」
礼音はしゃがんだまま目線を下に落とした。
その時、薫のズボンのポケットが振動した。慌ててポケットからスマホを取り出す。
「もしもし。」
『薫か?大輝だ。』
「どうかしましたか?」
『構成員から連絡が入った。俺たちをはめた奴らの居場所が分かったぞ。』
「何処ですか?!」
大輝が住所を告げる。
「えっ。」
その住所を聞いた礼音が生徒手帳を見たまま固まった。
「どうしました、礼音?」
「ねえ、その住所。
──────────この子の家だよ。」
「は?」
薫が目を見開いた。手が勝手に開きスマホを落としかける。
『何があった?』
電話口で少し焦った様子で大輝が聞く。
「実は……。」
薫は助けてくれた少年がいなくなっていること、 荷物は漁られた形跡はなく、 散乱していること。 今言った住所が少年のものだと思われる生徒手帳に自宅として記載されていることを話した。
「…本当に偶然か?その少年は本当は奴らとグルで俺たちを呼び寄せるための囮かもしれんぞ?』
話しを聞いた大輝は落とし込みをするようにゆっくりそう言った。
「だったらボスを助ける必要なんてないでしょう?今なら殺す千載一遇のチャンス。ボスを殺した、と言っても我々はここに来ることは明白です。」
『…そうだな。』
肌寒い風が辺りを支配する。しばらくの沈黙のあと、薫が口を開いた。
「ひとまずそこに行きましょう。 受けた仕打ちは倍にしてお返ししなければいけませんし、 少年……架瑠さんについても何か分かる可能性もあ りますしね。」
『異論はないな。』
大輝は少しだけ楽しそうに言った。その間に礼音は構成員に架瑠の荷物を全て集め、管理するよう指示を出すと困ったように首をかしげながら言った。
「大輝くんが乗り気なんてやーだなー。まあ俺も 賛成だけどさ。」
『僕は少し架瑠くんについて調べさせてもらうね。』
電話口から斗和がそういうと、薫は思わず口角をあげた。
「架瑠さんが気になるのはいいのですが、その前に作戦の立案をお願いしますね?」
『もちろんそっちもちゃんとするよ?』
斗和はちょっと不貞腐れた様子である。
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