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「とにかく。早く動き出しましょう。私と礼音も今から車に向かいます。」
『了解。待ってるぜ。』
薫は電話を切ると、スマホを持つ手をゆっくりと下げた。
「なにやってんの?早く行かないと。」
礼音が薫の正面に回り込み、両肩に手を置いた。どこか上の空だった薫は礼音と目が合うと、目を少し見開き小さく動揺した。
「今はあんたがトップだよ?しっかりして!薫くんいつも言ってたことでしょ?」
礼音は薫から少し距離を取ると、片手の人差し指をぴんと立て、もう片方の手を腰に当てた。
「ボスたるもの、これくらい出来なくてどうします?どんな予想外のことが起きても常に冷静に、 堂々としていなさい。それがボスであり、組織のトップに必要なことなのです。」
「…私の真似ですか?」
「我ながら上手く出来たと思うよ?」
礼音は自慢げに笑う。 そんな礼音に呆れたように下を向いて溜息をついた薫の口には笑みが浮かんでいる。そのまま礼音を置いて走り出した。
「ちょっと薫くん!なんで置いていくのさ!?」 「のろいですね。早く行きますよ?」
遠くなる薫の背中に礼音は思わず笑みをこぼし た。公園にひとつだけある街灯がちかちかと点滅して、辺りが暗くなると薫が見えなくなる。礼音はゆっくりと振り返って公園の公衆トイレを一瞥すると、1度目を瞑りもう一度薫がいるであろう方向を向いた。
「絶対、助けるから。」
そう言葉を漏らすと、礼音は薫に追いつくために 走り出したのだった。
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