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「お疲れ様でした!」
「おつかれー!」
先輩に挨拶をして、学校を出る。すっかり暗く なった空を見上げて、架瑠は溜息をついた。今日は木曜日。1週間の中で唯一塾がない日だ。だが架瑠は塾の自習室を使うつもりでいた。 いつもと同じ電車に乗り、 イヤホンをつける。 電車を降りて、自転車に乗り、漕ぎ出そうとしたその時、なにかを感じて立ち止まった。恐る恐るその方向を見るが、あるのは街灯のない真っ暗な細い道。漠然とした不安と僅かな期待を胸に架瑠は自転車を降りて突き動かされるようにゆっくりその道へと足を踏み入れた。
大通りから外れた暗い道に人の影はない。自転車のカラカラという音だけが響いて、架瑠は意味もなく息を潜めた。
少し歩くと、月の光が少し眩しくなった。下を向いていた架瑠が前を向くと、右手に小さい公園があった。懐かしい公園の遊具が並ぶ中、架瑠はベンチに目をとめた。黒い物体が横たわっている。
架瑠が動かずに観察していると、その物体は時折不規則に動く。架瑠が音を立てないよう自転車を止め、ゆっくりと近づくとそれが人であることが分かった。ただ、顔は黒いジャケットに覆われて見ることが出来ない。ベンチの目の前まで来た架瑠は静かに深呼吸して、目を瞑ったままそのジャケットをゆっくりと剥いだ。
恐る恐る目を開けると、そこにいたのは端正な顔をした筋肉質の男だった。髪はネープレスの黒髪で、時折顔を歪めているが、意識はないようだ。
「大丈夫ですか?」
肩を優しく小さく声をかけるも男には届いていない。何か男の身元が分かるような物はないか探してみようと着ている白いワイシャツの胸ポケットを探ろうとした時、 黒いジャケットから振動が伝わる。ポケットを探ると、黒いスマホが振動して いる。画面を開くと、 浅倉薫(あさくら かおる)とある。架瑠は恐る恐る通話ボタンを押した。
「・・・もしもし。」
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