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オープニング
「それでさぁ、バスケ部の大会見にいったわけよ。そしたら他校の女子も結構来ててー」
「えー、マジでー? 田中先輩目当て?」
「そうみたい、ウチの学校のチームばっか見てたから」
昼休み、きゃっきゃと騒いでいるのはクラスの中心的存在の女子グループ。
社交的で明るくて、見た目も華やかな女の子たち。
不良ではないけれど、たまに授業をサボったり、遅刻早退も「すみませーん」なんてあっけらかんと済ませてしまうような子たちだ。
昼休みのお昼ご飯の終わったあとも、教室の中心にくっつけた机でおしゃべりに興じている。
困ったなぁ。
それを見ながら内心で言ったのは、その子たちに比べればずいぶん地味な女の子だった。
長めの黒髪に眼鏡をかけた、小柄な子。
いじめられているわけではないけれど、少なくともあの輪には入れてもらえないくらいには、地味で大人しくて内気、といえた。
それはともかく、この地味な女の子・美久(みく)が困っている原因としては、単純にそこに自分の席があるからである。
使われている机のすぐ横が美久の席。そろそろ昼休みが終わるから、机に着いて支度をしたいのだけど。
今、あそこへ入っていったら割り込む、というか、邪魔をしてしまうことになるかもしれない。
うっとおしそうな視線を向けられること。大人しい美久には大変恐ろしかった。
でもこうしているわけには。
そのとき、がららっとうしろのほうで音がした。教室のドアが開けられる音だ。
割合大きな音だったので、教室の中にいた子たちの何人かはそちらを見た。
「あかり、いる?」
ドアを開けた誰かはそう言って女子の名前を呼んだ。
声と言葉からするに、男子生徒でほかのクラスの子らしい。つられるようにちょっとだけ視線をそっちにやったけれど、美久は知らないひとだった。
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