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と、言うことで、この日もルイは都市伝説や噂話について、体系的にまとめられた資料を読んでいた。彼自身、卒業論文で都市伝説を少し取り扱っていたので、興味深く読んでいるし、見覚えのあるような論に記憶が刺激される。
没頭して読み進めていると、突然室長デスクの電話が鳴った。びくっと肩を震わせたが、すぐに受話器を取り、
「びっくりした……はい、都伝久遠です」
『交換の足立です。久遠警視に、ウメゾノ様からお電話です。お繋ぎしてよろしいでしょうか?』
「ウメゾノ?」
ウメゾノ……梅園と言うと思い起こすのは、高校の時の同級生くらいだ。しかし、卒業してから没交渉と言っても良い。
「はい、繋いでください」
梅園にしても、知らないウメゾノさんにしても、何の用だろう。首を傾げながら、回線が切り替わる音を聞き、
「お電話替わりました。都市伝説対策室の久遠と申します」
『久遠ルイさんでお間違いないでしょうか?』
「はい……って、その声やっぱり梅園じゃん」
同級生の梅園達樹で間違いなかった。
「久しぶり。どうしたの?」
『はは、相変わらずだな。元気そうで何より。警視庁のキャリア警視だって?』
「含みがあるなぁ。君は何してるの?」
『俺? 文科省で書類仕事してるよ』
「教科書とか作ってんの?」
『作るのは出版社。俺たちは検定』
「ああ、そうだったね。ところで、なんで僕が都伝にいるって知ってるのさ」
『風の噂だよ』
まあ……キャリアの警視が都市伝説関連の非公開部署に配属、なんて、噂にならないわけがないのだ。ルイは目を細め、
「そう。で、わざわざ電話掛けてきたって事は、何かあったの? 文科省の何段目の階段を踏むと花子さんでも出る?」
『いい加減だな。いや……』
そこで梅園は声を潜めた。
『割と真面目な話、相談したいことがある』
「それは文科省からの依頼?」
『いや、俺個人の相談だ』
「梅園が何かに巻き込まれてた?」
『高校生の親族のことなんだ。予約制か?』
「別にそう言うことはないけれど……時間空け……あ、ちょっと待って」
ルイは保留を押すと、予定を確認しようとして顔を上げ、面食らった。3人とも、彼が電話しているところを興味深く見ていたらしい。
「な、何? どうしたの?」
「ルイさんが楽しそうだなって思って」
メグがさらっと流した。ルイは肩を竦めて、
「高校の同級生が文科省にいてびっくりしたよ。午後空いてるよね? その人が個人的に相談したい事があるらしくて。高校生の親戚が何か巻き込まれてるみたい」
「特にないですね。何時でも大丈夫だと思います」
アサがカレンダーを見ながら頷いた。ルイは礼を言って保留を解除すると、
「午後なら何時でも大丈夫」
『じゃあ、14時はどうだ?』
「良いよ。それまでにお昼済ませとく。君は午後休?」
『そう言うことになるな。都伝ってどこにあるんだ?』
「本庁舎の地下だよ。受付の人に言っておくから僕を呼んで。迎えに行くよ」
『すまない。じゃあ14時に』
「待ってまーす」
ルイは電話を切ると、もう一度顔を上げた。
「14時に相談予約1件。僕、その前にお昼行かせてもらって良い?」
「その時間なら全員お昼行けるよ」
ナツがくつくつと笑った。ルイは苦笑しながら、受付に、梅園が来たら連絡をもらえるように依頼した。
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