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13時55分。ルイのデスクで電話が鳴った。
「都伝久遠です」
『受付の藤本です。久遠警視とお約束の、梅園様がお見えです』
「ありがとうございます。行きます」
ルイは受付まで梅園を迎えに行った。連絡してくれた職員に礼を述べると、同級生に駆け寄り、
「変わってねぇなぁ」
「お前もな」
梅園はルイよりやや背が高い。高校の時はサッカー部だったと記憶している。部活に明け暮れていた割には成績が良く、国立大学に進学したのを覚えていた。当時から清潔感のある短い髪型、精悍な顔立ちは今も変わらなかった。エレベーターに乗って地下に降りる。古びた磨りガラスの扉を見ると、梅園は目をぱちくりさせて、
「こりゃまたレトロな」
「まあね」
ルイはノックしてドアを開けた。待ち構えるように立っている、神妙な顔のメグを見ると、梅園は驚いたらしい。
「こ、こんにちは。先客かな?」
「彼女はコンサルタントの五条さん。霊能者だよ。こっちは事実上大黒柱の桜木さん、あちらは武力行使してくれる佐崎さん」
「う、梅園です。よろしくお願いします」
髪の毛を赤く染めたゴスロリ女子高生のメグ、ルイとはまた違った意味での美形であるアサ、とても武力行使からは縁遠そうなナツを見て、梅園は戸惑った様だった。ナツが立ち上がり、
「今お茶を……」
息子の友人を迎える母親の様に言う。梅園は狼狽え、
「お気遣いなく……」
「とにかくあっちの相談者席に座って」
彼をソファに座らせると、その向かいにはルイが座った。
「お茶どうぞ」
さっさとお茶を淹れたナツが茶卓を置く。
「ど、どうも……」
「高校生のご親戚のお話ってことだから、五条さんにも聞いて貰おうかな」
「はーい」
ルイに呼ばれると、メグはぱたぱたと靴を鳴らしてルイの隣に座った。
「コンサルタントの五条です」
ナツはというと、執事のように盆を抱えてソファの傍らに立っていた。アサは自席で手を止めている。
「それじゃあ、話して貰おうかな。まずはご親戚のことについて教えて」
ルイが水を向けると、突っ立っているナツを気にしながらも梅園は話し始めた。
「俺の親戚に、美月ちゃんと言う高3の女の子がいてね。これ、去年の新年会の写真。この子が美月ちゃん」
そう言って、スマホに写真を表示させた。老若男女が料理を囲んでいる写真。その中で、メグとあまり変わらない少女の姿を指す。
「この子が怪異の被害に遭ってるんだね。それはどんなもの? 経緯の方が話しやすければそっちでも良い」
「本人によれば、こっくりさんだそうだ」
「こっくりさん……」
メグが呟いた。梅園はやや狼狽えた様に、
「俺が見たわけじゃないよ」
「別に信じてないわけじゃないんだよ。というか、こっくりさんが実在する前提じゃないとうちは動けないから、いる前提で話して」
ルイが間に入って、梅園からの聴取は進んだ。
梅園の親戚の高校生、美月は、友人たちとこっくりさんをしていた。美月によれば、その時こっくりさんの制御が利かなくなってしまい、終了手順が完了しないまま儀式が中断されてしまったのだそうだ。その時、美月は廊下で白い尻尾……今から思えば狐だったのだろう……を目撃している。
「それから、美月ちゃんはどこでも狐を見るようになったって言うんだ」
自転車通学をしている美月が帰り道に自転車を漕いでいると、突然目の前を大きな白い動物が通り過ぎて、危うく事故になりかけただとか、自室にいたら外で気配がしてカーテンを開けたら白い尻尾が見えたとか。最近では学校の中でもその気配を感じており、ノイローゼ寸前だと言う。
「夢にまで見るそうだ」
「そりゃそうだ」
仮に、全て目の錯覚だったとしても、日常生活に支障を来すほど気にしているなら、夢にも出ようと言う物だ。
「気のせいならそれに越したことはないんだ。俺はどちらかと言うと心療内科の受診を勧めたいんだがね、受験を控えている上に、親が比較的精神科系に偏見があるから言い出せなくて。一緒にやった友達も見たって言うから、皆でお祓いに行こうかって話にはなってる」
「なるほどね。事情はわかった。すぐに解決できるかはわからないから、一応受診も視野に入れた方が良いかもな。カウンセリングでも良いし。スクールカウンセラーの先生は?」
「まだ相談していない」
梅園は肩を竦めた。ルイは頷いて、
「もし、こっくりさんがいなかったら相談してくれ」
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