信仰強度

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 梅園美月が通っているのは、東京都でも有数の進学私立校だった。目黒(めぐろ)区にある。ルイたちが尋ねると、すぐに応接室に通された。廊下ではブレザーの少年少女たちが興味深そうに見ている。ルイとナツが愛想良く会釈すると、向こうも丁寧に挨拶を返してくれた。 「さすがは進学校。お行儀が良い」  ナツが小さく呟く。それは嫌みではなく、単純に若くして丁寧な少年少女への賞賛の言葉だった。  やがて、担任の教師と校長、梅園がやって来た。彼はルイを見ると、微笑んで軽く手を上げる。ルイもにこりと笑って見せた。 「えーと、こちらが警視庁都市伝説対策室の皆さんです」  どうやら、梅園が間に立ってくれるらしい。当事者の親族で、霞ヶ関のキャリア官僚という肩書きは絶大だ。ルイも愛想良く、 「初めまして、警視庁の久遠と申します」  全員で自己紹介がてら名刺交換を終えると、ルイは二人の顔を見た。 「お電話では、関係生徒の周辺で奇妙な出来事が起こっている、と聞きましたが、もう少し具体的にご説明いただけますでしょうか?」  まずは美月の担任が話をした。きっかけは、美月の授業中の態度の異変。真面目な美月が気もそぞろで授業を受けていた。担任は当初、妊娠を疑って、養護教諭と一緒に話を聞いた。美月も話すつもりはなかったが、教師たちの誤解が予想外で、思わずこっくりさんのことを話したのだそうである。 「まあ、普通はこっくりさんやってから怪奇現象に悩まされているなんて思いませんからね」  ナツが頷いて納得を示した。ルイもそう思う。女子高生の気がそぞろになるなら、いじめか妊娠、虐待を想定するだろう。  美月の話で判明したこっくりさんの参加者の様子をそれとなく観察すると、美月ほどではないがやはり何かを気にしている様子で、個別に話を聞いたところ、やはり「白い狐を見かける」と言うことだった。ただし、頻度は圧倒的に美月が高い。そんなある日、ちょっとした事件が起きた。 「梅園さんが階段から落ちたんです」  幸いにも、手すりを掴んで事なきを得たが、美月はパニック状態。狐に落とされた! と口走り、友人たちにもその動揺は連鎖した。そこで梅園が都伝との橋渡しを提案し、今回の介入になったと言うわけである。 「大筋はわかりました。では、当事者からのお話を伺いたいです」 「じゃあ、美月を呼んできますね」  梅園が立ち上がった。美月は別室で待機しているらしい。やがて、彼に連れられて、疲れ切った様子の少女が入って来た。新年会の写真よりもやつれているように見えたが、確かに梅園美月だった。 「初めまして。梅園美月です」  それでも、きちんと挨拶はする。育ちの良さがうかがえた。 「警視庁の久遠です。お時間割いて頂いてありがとうございます」 「すみません……」  自分の為に、4人の警察官を動員したことを詫びるかのように、美月は消え入りそうな声で言った。 「気にしないでください。誰にでもあることですから」 「そうそう。血を流すお面をネット配信して痛い目に遭ったおっさんもいるからね」  ナツが言った。美月はちょっと首を傾げて、 「それって、この前ライブ配信されたあの動画のことですか?」  先日、裏側から血を流す面と言う物を手に入れた会社経営の男性がいた。詳細は省くが、血はすぐに消えるので、良い見世物になると思ってその様子をネットで生配信したのである。その結果、ルイが言うところの「信仰強度」が上がってしまい、血が消えなくなった……と言うことで都伝に泣きついた。 「あの動画知ってるの? あれもね、私たちが解決したんだよ」  メグが嬉しそうに言う。 「だから、力になれると思うな」  美月は、自分も知っている怪奇現象の解決に、目の前の大人たちが寄与していることを知って、やや警戒を解いたようだった。どうせ大人は信じない、とでも思っていたのだろうか。(もっと)も、彼女が信用したのはメグだけだったかもしれないが。それでも良い。一足飛びに得られる信頼などない。  彼女を都伝の正面に座らせ、校長と梅園が挟み、あぶれた担任がソファの脇に立つ。美月はぽつぽつと話し始めた。
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