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「あの日、陽菜……友達が、こっくりさんやろうよって言い出したんです」
彼女たちも、こっくりさんについての逸話は、その後の惨事込みで聞いている。けれど、だからこそ陽菜はやりたいと言った。
「あんなの、どうせ暗示なんだから。暗示ってことを自覚していれば大丈夫だよ」
明るい陽菜に言われると、そんな気がしてきて、美月たちは了承した。高校を卒業するまでに、1回くらいはやってみたい……という好奇心に負けた。
「大学でオカ研入ったら?」
ナツが言うと、美月はちょっと困った顔で、
「いえ、そこまでオカルトに興味はないので……1回やって面白かったら良いかな、くらいのつもりでした」
律儀に答える。
「それで、いくつか答えてもらってたんですけど……この質問の中身、個人的なことなのでできれば言いたくありません」
「結構です。捜査が進んで、質問内容が関係あるかもしれない、と判断したらお尋ねするかもしれませんが、その時またご検討ください」
ルイは頷いた。美月はやや拍子抜けしたようだった。警察をなんだと思ってるんだこの子。内心で苦笑する。
「え、ええっと、それで、もうこれくらいでおしまいにしようってことになって、こっくりさんお帰り下さいって皆でお願いしたんです」
硬貨は「いいえ」を指したと言う。それから、「せんいんしぬ」……「全員死ぬ」と告げられた。その後はもうめちゃくちゃに紙の上を行ったり来たりして、最終的に机ごと倒れてしまったと言う。
そこで、転がった10円玉を追い掛けた美月は、例の白狐を目撃したのだそうだ。
「白くてふわふわで、でもそんなものが学校にいるのが信じられなくなって……」
恐怖もあり、追い掛けなかったと彼女はややバツが悪そうに言った。
「賢明です」
アサが頷くと、美月は少々安心したような顔をした。
「その後、陽菜が怖がるから、二人でもう一度『こっくりさんお帰りください』って言ったんですけど……」
10円玉はうんともすんともしなかったらしい。
「それからです。私が狐を見るようになったのは。最初は、気のせいだって思おうとしたんですけど、そんなことないぞって、自分はここにいるんだぞって見せつけるみたいに最近頻度が増えて……この前階段から落とされました」
「大変だったねぇ。怪我は?」
ナツが痛ましいと言わんばかりの顔をすると、美月は肩と脚を指して、
「ちょっと痣になったくらいでした。でも、もう怖くて」
「そうだよね。ところで、陽菜ちゃんたちも見えてるんだよね?」
メグが尋ねた。
「はい。私ほどじゃありませんけど」
自分の話を前提に質問が組まれているのを感じたのか、美月は安心し始めているようだった。梅園や教師たちもやや拍子抜けしているようだった。警察なら、もっと勘違いではないかと突っ込んで来るとでも思ったのだろう。「都市伝説対策室」とは、あくまで都市伝説を研究し、それには科学的な原因があるから騒ぐなと指導する部署である、と。
一通り話を聞くと、美月は梅園に連れられて応接室を辞した。今日はこれから梅園が車で家まで送るとのことである。
「では、明日以降に残りの三人からもお話を伺いたいのですが……」
ルイと学校側の二人が神妙な顔で関係生徒への聞き取りを依頼しているその時だった。慌ただしいノックがされる。
「どうぞ……?」
校長が首を傾げながら返事をすると、梅園が酸っぱい顔をして立っている。美月は怯えた様子でその後ろに立っていた。彼はルイの顔を見て言った。
「久遠、車にこっくりさんがいる」
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