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Side-A
初めは随分と戸惑ったものです。
青々とした芝生の上で目が覚めました。
ふかふかの芝生の匂いは気持ちが良いけれど、なぜこの場所にいるのか分かりません。
気がつくと、わたしは森を遥か下に見下ろしていました。
流れる川と満開の桜が見えます。
わたしの住む街も、川沿いの桜がきれいでした。
あそこに架かっている橋もよく似ています。
ここは、わたしが住む街でしょうか。
だったら、あの橋を渡れば帰れるかもしれません。
でも、思い出しました。
あの時、街は業火に包まれていたはずなのです。
熱くて、痛くて。
火のない場所を求めて逃げ惑いました。
それでも人でひしめき合う橋には行き場がなくて。
途中ではぐれてしまった母と姉はどうしたでしょう。
俄かに不安に襲われます。
わたしは、祈るような気持ちで母と姉を探して彷徨いました。
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