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「ただいまあ」
「お帰りなさいませお嬢様」
両親と同じくらいの年の大人たちが佐和に頭を下げる。本来彼らは一条家に仕えるものだから主人格である佐和が声をかける必要はない。それでも佐和は愛想よく誰にでも声をかけるから、彼らは一様に佐和をかわいがってくれた。
部屋着に着替え、席に着けば何も言わずとも食事が整えられる。豪華ではないが素材にこだわった料理はそこらの料亭にも引けをとらない。いただきますときちんと手を合わせてから箸をとる佐和の食べ方にも、並ぶ上品な夕食にふさわしい品があった。
「ごちそうさまでした」
綺麗になくなった皿を下げる使用人においしかったと伝えれば笑顔を返される。食後に出されたフルーツを食べていると、ドアを開けて入ってきたのは弟だった。
「今日は遅いね」
「彼氏とデート」
人差し指を立てて口に当ててみせると和泉は苦笑して箸をとった。
佐和と顔のよく似た弟は佐和とは違い昔から愛想がない子だったから、あまり親戚の大人たちには可愛がられなかった。もっとうまくやればいいのにと、子供心によく思ったものだ。
「西嶋は?」
「母さんを会社に送りに行ったみたい」
「また急な仕事か」
「そうみたいだね」
佐和はふうんと返しながら冷えた甘夏を口に入れた。程よい酸味とほのかな甘味が佐和は好きだ。
「あんたこそ、まだご飯食べてなかったの?」
「本を読んでたら遅くなってしまって」
「本の虫だ」
それから、会話をしながら弟がゆっくりとご飯を食べ終わるのを待って佐和は部屋に戻った。
ベッドに転がると心地よい睡魔がやってくる。なんとかベッドの心地よさに抗って佐和はえいっと起き上がると、風呂場に向かった。
脱衣場で服を脱ぎ鏡で全身をくまなくチェックする。少しでも今の自分に妥協してしまえばあっという間に体型は崩れるから佐和はチェックを怠らない。特別ではないからこそ努力するのだ。
「今日もオッケー」
風呂から上がると何も言わずとも使用人が白湯を渡してくれる。それからどうしても眠くて、いつも欠かさずに見ているドラマを録画するとそうそうに部屋に向かった。今日はどうしてかえらく眠い。ベッドに倒れこむと考える間もなく眠りについた。
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