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「和泉……」
いつしか崇拝にも似た憧憬は現実の欲望を伴うようになる。彼のことを思うだけで得ていた高揚は気が付けば彼に触れたいという衝動に変わっていく。己を慰めながら彼の名を口にすると驚くほどの興奮を得ることができた。想像の中の彼は優しく、何をしても許してくれる。頭の中で柳田は何度も彼と愛し合った。そうすると彼への想いが余計に募っていった。
彼のあの綺麗な瞳に映りたい。
細い指で触れられたい。
優しい声で名前を呼ばれたい。
あのストイックにさえ見える制服を乱し、彼の体を…――
一度、柳田はふと我に返ったことがあった。隠し撮りした彼の写真が所狭しと貼られた部屋で、彼の名を呼びながらベッドに横たわりこれは異常ではないか、と自問した。
誰かに異常なほどの執着を見せる人間をストーカーと呼ぶ、と柳田の中で誰かが呟いた。しかし、とさらに誰かが応える。果たして己はストーカーと言えるだろうか?よくニュースではストーカー行為が行き過ぎて相手を殺してしまう事件が報道されている。しかしどうだろう、自分が和泉を殺すことなど考えられない。それどころか彼がいなければ生きていけない。そうだ、これは執着ではなく愛情だ。これほどの思いが愛情でないはずがない。そしてこれだけの愛が受け容れられないはずはない、そう柳田は断じた。むしろこうして離れ離れでいることの方が不自然に思えた。
それを言わしめて世間では異常な執着と言うのだと、柳田は知らなかった。
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