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ここは、とある山奥、小豆村。
ほんとは、地図にも載ってなくて、名前なんて知らんけど、
そう呼ぶことにしよう。
今、この村に住んどるのは、きつねとたぬきと、座敷童と、川で小豆を洗うというばあ様と、そんなもんしか、おらんの。
けど、昔は、人間が棲んどったんよ。畑があってな、こんにゃく作ったり、さつまいも作ったり、茶畑もあった。
100年くらい前やろうか。
今は、どげしたことか、この村のシンボルのような、崩れかけた神社と、お坊さんもいなくなったお寺と、古い空き家ばかり。
悲しいことだ。
人は皆、街へ行ってしもうた。
働く場所がないから、仕方あらへんね。
けど、好きで村を出てった人も、そうでない人も、
魂だけ、ここに置いてったように、
時々、不思議なことが、起こるんや。
ある日、ハイキングで、山登りに来た女は、
小豆村で、若い男に遭ったんやけど、
のっぺらぼうみたいな、無表情の男で、
振り向いたら、いつのまにか、風にふかれたように、
その男が消えていたとか。
女は、気味が悪くなって、きつねに化かされたのかと、
急いで、家に帰ったそうだ。
ね、あんたは、どこから来たんや。
川の流れは、そう嗤うように、流れている。
蜜柑でも、食べてけよ。
家からは、そんな声が聞こえてくる。
それは、気のせいではなく、
確かにそこに、暮らしがあったからや。
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