一人目の共犯者

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『きっとね、あの人は私がいなくなったら、ダメダメ人間になると思うのよね。だからこのカードは、そうならない為に、もしくはそうなった時に元に戻す為の小道具なの。分かる?』 『そりゃ、母さんからの手紙があれば父さんもちょっとは元気になるだろうけど……』 母の計画に有効性は認めたものの、内心では、俺だってダメダメになる可能性があるのになと、複雑で難しい年頃の心境が燻っていた。 ところが、俺の同意を得たと早合点でもしたのか、母は自信満々に指令の詳細を述べてきたのだ。 『でしょ?だからあなたは、私のお葬式の夜…は、まだ早いか。四十九日くらいがいいかしら?うん、四十九日にしましょう。その日の夜、このテーブルの上に、この1番のカードを置いて欲しいの。ここには、私からのメッセージカードがあなたによって家中に隠される旨を書いてあるから』 言いながら1番のカードを開いた母。 そこには ” サプライズ!  私達の息子が宝探しを仕掛けたわ 宝は私が書いたカード  全部で100通は超えるはずよ  これは1番のカード  次は家の片付けでもしながら2番のカードを探してね  でもすぐに見つかるとは限らないわ  それは私達の息子の気分次第なの  だからあなたは、ただ毎日の生活を送りながら、  2番のカードの出現を待っててね  最後のカードにはちゃんと最後と書いておくから  そのカードを見つけるまでは宝探しは続行中よ  あなたがすべてのカードを見つけられるよう祈ってるわ! ”                      なんとも陽気な文章が並んでいた。 ……この人、もうすぐ死ぬんだよな? そう思わずにいられないほど、母はどこまでも明るかった。 『いい?まず1番を置いたら、しばらくお父さんの様子を見てね。それから2番以降のカードを出すタイミングはあなたに任せるわ』 『タイミングって?』 『例えば、お父さんが毎晩泣いてるとか、お酒が増えたとか、何かこう、気分転換が必要と感じた時よ』 母はスラスラと答える。 母の死後、父が泣き暮らすことなんて簡単に予想できるけどな。 『…そういう時がきたら、またテーブルに置けばいいの?』 『ううん。2番以降は、あなたが好きな所に隠して?本棚の隙間とか写真立ての裏とか、お父さんの目に入りそうな所にね。でも、順番は守ってね』 『順番に意味はあるの?』 『もちろんよ。カードの中ではちゃんと話が続いてるんだから』 『例えば?』 『例えば…4番は”私の写真でお気に入りを1枚選んで”と書いたんだけど、5番では”それを入れる写真立てを新しく買うこと”となってるの。要するに、あの人が悲しい気持ちからよそを見るように仕向けたいわけ。だいたい100通を超える辺りになったら、立ち直ってくれそうだと思わない?』 『それは、どうかなぁ……』 100通ということは、週一なら約二年弱、週二ならその半分だ。それくらいで母を失くした父の心が癒えるとは思えないけれど、今それを母に告げたところで母を悩ませるだけかもしれない。 逡巡の末、俺は曖昧に答えた。 だが母は俺の意見など興味もなさそうで 『とにかく、あなたは今日から私の共犯者よ?分かった?』 と念押し、楽しそうにペン先を弾ませていた。 そして俺は、これが、命の残量が限りなく減っている母親の、最後の願いなのだろうと、心を強くして共犯者役を引き受けたのだった。
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