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だがいくら呑んでも顔色一つ変えないというのは、どこにあろうと酔った男達に付け入る隙を与えないために必要なスキルだった。
そんな育ちが幸いしたのか東京の大学に入学した小夜子は、サークルの仲間と居酒屋のコンパや合コンに参加しても、乱れたことはなかった。
酔いつぶれた他の女の子たちを介抱し家の近くまで送るのは、自分と、下戸の同級生男子の役目だった。
テレビドラマや映画の中には、素敵な酒の場というものが存在する。
例えばシックなホテルのバーカウンターで、足を組んで長い髪をかき上げながら座る美人女優に、バーテンがスッとカクテルを差し出し
「あちらのお客様からでございます」
等と穏やかに囁くシーン。
女優の視線の先には悠然と水割りを傾ける紳士の姿。
そんな、奥歯の詰め物がグラグラ動いて外れそうなむずがゆいシーンを、自分も夢想したことがある。
ほの暗い照明の下、日常のわずらわしさ、外の世界のストレスを家庭に持ち込む前にゆったりと解消してゆく。
そんな呑み方が小夜子のあこがれだった。
だが数年前に卒業した大学の同級生や、当時のサークルの友達、就職先の会社で仲よくなった同僚たちにそうした話をしても
「年寄り臭い」
「フィクション臭い」
「差し歯が外れそう」
と言われた。
最後の一言を放ったのはサークル同期の腐れ縁の下戸男、れんちゃんだ。
いつも小夜子と一緒によっぱの介抱を担当していた法学部生。本名を松屋錬という。
二人は在学当時から今まで「お肉ペア」と呼ばれている。
唐揚げや焼肉が大好きだからであって、決して肉食女子男子というわけではない。
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