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彼は赤くなった彼女を見つめていた。
あの時は強引に自分から触れたけど、もしもそれが嫌だったのなら。
こうやって二人で会うこともないはずで……彼女もきっと、この感情に困惑しているんだろうと思う。
まぁ……僕ごときが少々ひっかき回したくらいで、動揺する人じゃないとは思うけど。
「お代わり、もらいませんか?」彼女のカップの中身を見て、彼が店員を呼ぶと、
「ありがとう」彼女が言った。
「ねえ、智一さんって自分の書く文章が『薄味』だって言ってたでしょ?」
「ええ」
「本になったのを見て、どう思った?――私はかなり存在感あるって思ったけど」
「……そうですかね」
彼は、彼女が書いたものを全部読ませてもらった後で――『彼女の文章は鮮明で力強い』とあとがきに書いていた。くっきりと輪郭がわかる文章だと思う。だが、自分の文章に関して言えば、よくわからないというのが本音だった。
「私ね、智一さんと出逢って、たぶん――結構な影響を受けたと思う」
「え?」
急にそんなことを言われて、彼はドキドキしていた。
「私たちたぶん、相性がいいと思うの。脳のね」
「そう……ですか」
『脳』と来たかと思う。口説き文句だとしたら、随分遠回しだな……そう思いながら彼は彼女を見つめる。と、お代わりのコーヒーがやってきた。
「ねえ……重美さんは強くて濃いから、このコーヒーみたいですよね」
彼はそう言うと、ポーションのミルクを開ける。
「そうかなぁ」
「だとすると……僕はミルクみたいなもんじゃないっすか」そう言いながら、彼は黙って彼女のコーヒーにミルクを入れた。
「え?」
何するのよという顔で見られるが、気にせずに彼は自分にもミルクを入れると、彼女のコーヒーをスプーンでかき混ぜた。
「このコーヒーが、僕の影響を受けた重美さんです」
どうぞ、と言いながら勧めると彼女はそれにしぶしぶ口を付けた。
「嫌、ですか?」彼はあえて、笑顔を消した表情で彼女をじっと見つめていた。
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