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晴れた土曜日、二人は少しだけ駅から離れたカフェにいた。
「お久しぶりです」
と、彼は運ばれてきたコーヒーに目をやりながら、彼女に話しかける。
「お久しぶり、です」
彼女は応えると、深煎りのコーヒーに口を付けた。
ブラックコーヒーか、砂糖抜きのカフェラテをいつもオーダーするが
――本当は無糖のソイラテが一番好きなことを、彼は知っている。
そんな彼女を見ながら、自分のコーヒーにポーションタイプのミルクと、
スティックシュガーを投入した。
二人で会うのは久しぶりだ。コロナの影響で文学フリマが流れてしまい、落ち込んでるんじゃないかと思っていたが、表情からは読み取れない。
今日は先日書いた小説が本になったそうで、献本分をいただきにやってきた。
「ねえ、その量の砂糖、入れて味がわかるの?」
彼女が不思議そうに言う。――少し砂糖が入ると美味しいんだけどな。と思いながら彼は彼女を見た。彼女の口には合わないんだろうけれど。
「……わかりますよ。そりゃ」と、彼は言う。
やっぱり不思議そうな顔で、彼女は彼のカップを見ていた。
「あ……これ。完成形だよ」
と、彼女は文庫大の薄い本を差し出した。
白い紙に極彩色のアート。ランダムな大きさの字が配置されていて
――紙上最高の恋――とタイトルに書かれている。二人で初めて一緒に書いた小説が、本になったのだ。感激もひとしおだった。
「おお!すごい!」と彼が感嘆すると、彼女は嬉しそうに笑う。
「絵は下手っぴだけど、アートは気に入ってるの。さんざん失敗したんだけど」
久々に彼女の笑顔を見て、ちょっと安心する。例の事件以来、こんな顔で笑ってくれなかったもんな――と思って彼は反省していた。
「私たちのイラストも描いたけど、ちょっと美化しちゃった
へへへ、と笑いながら彼女が言う。
「そんなことないですよ」と返しながらも、
自分が表紙になってると思ったらなんだか気恥しかった。
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