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♢
若林は大きく伸びをした。
やっと休める時間だ。
「あなたたち、体調は大丈夫?
いつでも言いなさいよ」
子安せんせいが、来客用の湯呑みに麦茶を注いで回る。
実働部隊ではないが、ちゃんと職員室に詰めているのだ。
不測の事態に備え、緊急要員として動けるようにしている。
「遅いなぁ、月代さん」
月代さんがトイレから戻って来ない。
「食べ過ぎかしら?」
想像が「食」にしか及ばないところが、いかにもミホせんせいである。
「せんせいと顔合わすのが気まずいんですよ。
早く誤解を解いてあげないと……って、もしかして忘れてるんすか?」
声を潜めた若林は、ミホせんせいのポカンとした顔を見て目を剥いた。
「だずげで」とか言ってたのはどこの誰だ。
そのために、デコピンという犠牲を払ってまで同じ班になるように仕切ったんだぞ!
「な、ちゃんと分かってるわよ」
忘れてたな──。
ともかく、あまり時間を食うと休憩時間が終わってしまう。
(このままじゃ何のためにデコピンされるのか分からない!)
ヤキモキする若林である。
「あ、戻ってきた! 月代さん、あの……」
「わ、私もう一度トイレに」
ミホせんせいが呼びかけるも、月代さんは泣きそうな顔で回れ右をする。
若林が立ち上がった。
「ちょっと待ったぁ!」
月代さんに向かってビシッと指を差す。
「ほんとは全然トイレ行きたくないですよねーっ!」
若林の剣幕に、その場にいた面々は呆気に取られた。
当の月代さんまでも。
(ああ、面倒くさい!)
この後、ミホせんせいと月代さんを連れて外へ出て、ミホせんせいの話を補足しつつ誤解を解かねばならないが……。
「もういいや!
あのですねえ! 実は、かくかくしかじかーーーーっ!」
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